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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』前編(下)

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5、四つの部屋と、お姫様




 ここから出たければ。
血時計のカウントが尽きるまでに毒入りスープを作り、飲み干し――そして自害しろ。

 改めて聞き返しても、絶句を禁じ得ない話だった。

「うへえ……ほんっとに趣味の悪い話だぜ」

 数秒の沈黙の後、斉藤が顔をしかめる。バリツも唸った。

「夢の中で死ぬという体験――というより死ぬ夢の類いは、日常生活でも全く経験がないわけではないがね。この現実感の中では……ためらわれるな」

 生き残るためには一度死を体験しなければならない。なんと皮肉な話だろう。

「にしてもよう、客のもてなし方が全くなってねえぜ」ため息の斉藤。「なんで来た俺たちが料理しねえといけないんだか」

「どこか、『注文の多い料理店』を思い出す話だ」夢の世界でのやるせない現実を前にして、つい多弁になる。「我々は食べられる側ではなく食べる側のようだが……」
「宮沢賢治のことかい? バリツ」
淡々と語るバニラだけは、特に動じている様子がない。
「猫に食わせるにしろ食われるにしろ、俺はせめてコンソメスープならちょっとやる気でるんだけどなあ」
「そ、そういうものなのかね? バニラ君……」
「ま、何にしても、こうしちゃいられねえな。もう一枚も確認しようぜ」

 斉藤の言う通りだった。何にしても、思考を止めるワケにはいかない。現実から眼をそらすわけにはいかない。

 紙片は、もう一枚。
 早速手に取ると、それは地図……というより図面のような何かだった。

 中央に記されているのは、丸みを帯びた文字で『食卓』と記された円形の部屋――自分たちの現在地点であることが直感的にわかった。この部屋を中心として、東西南北に一つずつの部屋があるようだ。

 上から時計回りに読み取っていく。

白押し戸 『調理室』
木でできた扉 『書物庫』
さびた鉄 『小娘』
小窓あり 『礼拝堂』

 「小娘――?」斉藤が(思いなしかちょっとテンションが上がった様子で)小さく呟くのが、聞こえた。

「……この図面は」

 バリツは地図を見上げ、改めて、4つの扉それぞれの特徴を時計回りに観察する。

白く清潔な扉。
茶色い木製の扉。
さびた鉄に覆われた扉。
鉄格子つきの、厳つい扉。

「どうやら、やはり我々がいる場所と合致するようだね」

 地図に記された文字と、実際の扉の特徴は一致しているようだ。
 斉藤とバニラも同じ見解に行き着いたらしい。
 バニラに促され裏面を見やると、簡素な文字列が、たった一行。

《誰も、何も傷つけることなく出られるなど、ゆめゆめ思わないように》

「――これまた物騒だな……」
「戦わないといけないかもしれないってことか?」
「なんとも言えないけどねえ」
「うむむ……ともあれ、目的を示した紙片と、周辺図がある以上――」

ただでさえ得体の知れないこの空間。何が潜んでいても、不思議ではないのだ。
だが遺憾ながらも、成すべき事は提示されているらしい。

「これらの部屋を回って素材を集め、毒入りスープを完成させろ。と、いうことになるのであろうか」
「んー、まあそうだね」
 バニラが首肯するのを見て、バリツは続ける。
「では、早速――」

「あー」そこで、斉藤が手を上げて提案する。
「斉藤君?」
「ドタバタしちまう前に一度、状況の整理をしておかないか?」
「状況の整理、というと?」
「俺たちは気づけばここにいたわけだろ? そんな訳の分からない中でいきなり動き出すってのはどうかと思うんだ」

 豪胆な斉藤は、しかしながら、非常に緻密な面も持ち合わせているのだ。
 あやうく行き当たりばったりに動きかねなかったバリツは、舌を巻いた。

「んー……ハイそうですかとスープ作りに取りかかる前に、一度皆でわかることはすり合わせておいたほうがいい、ってことだね」
「応とも、バニラ」

 そして、冷静沈着なバニラ。猿夢の怪異の際も、彼の冷静な判断力・分析力に、どれほど助けられたか。

「なるほど……流石だ」

 改めて思う。どちらも頼もしい味方だと。
バリツは大きく一息つき、自分に言い聞かせる。

(今回もきっと大丈夫。生還できる――皆そろって)


血時計のカウントも、まだまだ余裕があった。
三人はこうして、情報のすり合わせを開始する。

「まず皆、持ち物とかはないか? スマホとかよ。俺は見ての通り丸腰だが」
「斉藤君がいうと説得力違うネ……私は持ってないよ」
「俺もだねえ。枕元には置いていたんだけど。カメラもない」
「やはり外部に助けを求めるのは望み薄みたいだね……」

 ふと、バリツはある記憶を思い出した。

「ところで、何の前触れもなしに、気づけば見知らぬ場所にいたというこのシチュエーション――私と斉藤君には経験があったね」
「え? そうか?」
「ほ、ほら。私と君が出会った時の。はじめて巻き込まれた『尾取村』の怪異だ」 
「――ああ!」斉藤は掌をポンと叩いた。「あったなあ! 盆踊りの奴か!」
「頭に壺がどうのこうの、とかって言ってた話かい?」
「そうだ、バニラ君」

 話の一端だけは、『猿夢』の怪異に巻き込まれる直前、彼にも共有していたが、バニラと深く関わる以前の話だった。(ちなみに初対面の斉藤は、ヘルメットと称して頭に壺を被っていたのだ。たとえではなく文字通りに。)
バリツは改めて解説する。

「私たちとタン君、アシュラフ君は、正気を失った村長により、邪悪な儀式の生け贄として召喚されたのだ。都会から遠く離れた山村にね」
「なかなかぶっ飛んだ話だねえ」

 バニラはそう答えるが、その眼はどこまでも冷徹だった。
 聞き流している風では決してない。

「アシュラフ君とタン君は、私と元々関わりがあったが、斉藤君とはそれがきっかけで出会ったのだ」
「ちょうどヘルメット代わりに頭に壺被ってたんだよな、俺」
「88万円くらいする壺だったっけ……?」

「――村長とやらがそれを行っていた、動機はわかるのかい?」
「あ、うむ。彼は、何かしらの経緯で手に入れた魔術書の影響を受けたようだ。そして――ヨグ・ソトースと呼ばれる邪悪な存在を降臨させようと企んでいたらしい」
「!」

 一瞬。ほんの一瞬。
バニラの顔が驚愕に染まったのを、バリツはみた。
バリツは訝しむが、

「……なるほど」
 
 次に口を切ったバニラの顔は、平静を取り戻していた。
 どうかしたかね? という言葉が喉元を出かかったが、バリツはなんとなく控えることにした。どうやらまだ触れるわけにはいかないようだ。

「ともかくよ」斉藤が言う。
「またぞろ、どこぞの馬鹿が手前勝手な目的のために俺たちを召喚したってトコか? 今回でいうと、このふざけたゲームのために」

「そもそも何故私たちが選ばれたのか、という疑問は尾取村と同一だな――」
「一応、俺たちに共通項はありそうだけどね」
「ってえと、バニラ――昨日バリツんちにいたってことか?」
「昨日の今日となると、何かしらの因果関係は否めないが……ただそれだけで?」
「あと『きさるぎ駅』の出来事で一緒だったのも合致するね」
「――なるほど!」