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或る日の天気

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青空でない。
一面の白く見える空は 暑さの箱の蓋のようだ。
残暑。
そう一言であらわすよりも 不快感のある暑さを感じる。
熱風。
街に通る風に ふと砂漠かと… いや、砂漠の風を知らない。

そんな街に音が響いた。
雷鳴。
明るい景色の中に閃光を見ることはできないが 確かにその音は雷の音。

街路樹が 騒ぎ出す。
風が回るように 暑さにうな垂れていた葉を右にも左にも揺らす。
葉を大きく揺すぶり 小枝も大きくしなる。
耐えきれなくなり 離層を待たずして 吹き飛んでいく葉もある。

また雷鳴。
号砲のように やや大きく鳴った。

ゆっくりと暑さに重い足取りが 急に背筋が伸びて進み始めた。
並列で走る自転車の少女たちが 顔を見合わせて笑った。
楽しい笑いではない。おそらく「やばいね」とでもアイコンタクトしているようだ。
日傘をさすご婦人の傘が低くなった。 
たぶん 雷は苦手なのだろう。歩きは やや小走りになっていった。
自動車の運転手は この音が聞こえているのだろうか?
まだ日の眩しさに目を細めながら 落ち着いた顔で走り去っていった。

強く風が吹いた。
誰の置きものか、街路樹に隠れていた紙袋が路上に飛び出し 転がり始めた。
紙袋に入っていた紙コップと紙ナプキンの丸まったものが飛び出しながら飛んでいく。
そして、対面の街路樹の根元に留まった。 避暑の場所移動ではあるまい。

数回続いた雷は鳴りやんだ。
そのわずかな時間に見えた人の動きや自然の景色の変化は 不思議なほど面白い。
面白いとは、興味をそそられて、心が引かれるさまである。

色が変わった。
塗り替えられるわけではないが、一面の白く見えた空は薄墨が零れたように濃淡を広げていく。
騒いでいた木々の葉は、またしんなりと垂れて止まった。これからを待つように静かだ。
どうした?とばかりに 風が話しかけていく。重い風なのか、低音の風音が枝に絡んでゆったりと揺らした。
夕暮れまでには まだ時間はあるのに その暗さはその時のようだ。
時折、陽射しが 雲を割って照らしたがるが すぐにそれは閉ざされてしまう
その度に 路面に映る街路樹の影が 濃くなったり消えたりと模様を描く。
 
今か?まだいいか?と空をちらちらと見上げる男性の手には 幾本も飲み物のボトルが入った手提げ袋が下げられていた。
暑い。どんな空でも暑さが半端ない。ただ 雨が降りださなければいい。

景色が明るくなった。
色の濃い雲が天上に集まってきたのか 裾のほうが白けてきた。
急に路面に音が響いた。
降り出した雨。
もう粒ではなく、ホースでの散水のような降り方だ。
木々が騒ぐ。風が踊る。路面は一気に濡れた。
タイヤの音が響く。水を撥ねまくり上げて音を奏でていく。
やっぱり町なんだな。雨の音を消さないでくれ。
 
母の後ろを 小さな傘をさして歩く幼い子。
風は 両手に握る傘を揺らさないでいてくれるだろうか。

日が暮れて、夜となった頃、暗くなった空に閃光が見られるかもしれない。
その時々に報じる天気予報が 稲妻マークを記している。
大雨警戒レベルの情報に 安眠を願う。


処暑。厳しい暑さの峠を越した頃。
長い猛暑とも そろそろ決別の時期となるのだろうか。
朝夕には涼しい風が吹き、蝉の声も第二章のパートへなるのだろう。
そして、植え込みから 野原から 心地よい虫の声が聞こえてきそうだ。
暑さが和らぎ、穀物が実り始め、一息つきたいところだが 出番を待つ台風が 荒々しく季節の到来を伝えに来ることだろう。



     ―了―
作品名:或る日の天気 作家名:甜茶