涼子の探し物(4)
「いやうっそでしょそんなん!」
「ほんとなのおー!絶対に本当ー!」
美絵と私は、美絵のアパートの部屋で、クッションを敷いて白いスクエアテーブルを挟み、必死に叫び合った。
「ありえないありえないありえないって!」
「あったんだもーん!」
話が終わるまでは黙っていてくれる美絵だけど、聴いている間に思っていた事を、その後爆発させるように叫ぶ癖がある。
ああ、やっぱりすんなり信じてもらえるわけない、よね…。
「疲れてる時に遭うもんだってよ?金縛りって」
「金縛りじゃないじゃん!実際に喋ってるし!ね!美絵!私、嘘とか冗談でこんな…」
私はそこで、大声で泣いて床の上を転がる良一君の姿を思い出す。
「嘘でも、こんな悲しい話、いやだよ…!」
そう言った時、自然と涙が流れてきた。それを見て美絵の顔が急に真剣に、険しくなった。
「ほんと…なの…?夢とかじゃ…」
急に身近にそんな話が現れた人って、こんなに怖がるんだな、と私は思った。美絵は、怖そうにちょっと手を宙に浮かせて、肩を縮こまらせている。
仕方ないよね、普通、幽霊って怖いもん。
「夢、じゃ、ないと思う…。もしかしたら本当にただの夢かもしれない。でも、幽霊が居た痕跡がこれですなんて私には言えないし、本当に現実だったって感覚だけで、でも…とりあえず、私の嘘じゃないよ」
そう言って私は美絵にちょっと微笑む。美絵は、私が嘘を言っていないというのは分かってくれたけど、やっぱりちょっと訝し気に私を見つめた。
「それは分かったけど…でもさ…涼子、あんた…怖くないの…?」
私は良一君の姿と、初めて彼を見つけた時の感覚を思い出す。怖かったなあ、と懐かしく振り返っている。
「怖かったよ、びっくりした」
「いや嘘でしょ!?全然怖そうじゃないもん!なんで落ち着いてんのよそんなに!」
美絵の口癖は「いや嘘でしょ」、だ。
私は、なんだか美絵が私の代わりに驚いたり怖がったりしているようで、おかしくて笑ってしまった。
「なんで美絵の方が怖そうなの?」
そう言って私が笑うと、美絵は「だって幽霊だよ!?普通怖いでしょ!」と、またも怖がる。
私たちはしばらく笑っていたけど、「これだけは言わなくちゃ」と思って、私は美絵をちょっと見つめた。
美絵も、私の気持ちは分かってくれたみたいで、黙って私の言葉を待っている。
「大丈夫。私、無理もしないし、無茶もしない」
そう言うと美絵は急に脱力したようにテーブルに突っ伏した。それから、長い自分の指を片手の指でもてあそびながらふくれっ面をしている。私の言ったことに、あんまり納得してないみたい。
「幽霊と喋るって…けっこうな無茶よね?」
そう言って顔だけこちらに向けてぐったりとテーブルにもたれる美絵。
「そうかも」
私の両目はしっかり開いて眉に力が入り、口元が思わず笑いの形を作るのを感じる。
美絵はしばらく私を見ていたけど、大きくため息を吐いた。
「わかった。じゃあ何かあったら必ず言ってね」
「うん。約束する」
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