涼子の探し物（２）
なんだかさっきから気分が悪いなあ。胸が気持ち悪い感じ。それに、冷房が効きすぎてるのかな、それとも風邪を引いたのかな、寒気がするような気がする。困ったなあ、明日も講義があるのに…。
私はとりあえず冷房の設定温度は高めに上げて、洗面所に行って温かいお湯で顔でも洗おうと思って、ドアを開けた。廊下は夏なのになんだかひんやりしていて、おかしいなとは思ったけど、お湯で顔を洗って部屋に戻った頃には、なんだか眠くて仕方なくなっていた。
食事をしてから眠りたかったのに、私はベッドに横になってスマホをいじっている間に、眠ってしまった。
目が覚めたのは、朝の4時頃だった。枕元の時計は秒針を送りながら、それを愛想もなく私に知らせる。
参ったなあ、こんな時間に目が覚めても何もする事は無いし、今日の夕方の講義の頃には眠くて寝てしまうだろう。うーん。
しばらく目を閉じてみたけど、やっぱり眠れないので私は起き上がった。
どうせ眠れないならと、リビングにある飲みかけのカフェオレでも飲みながら、動画サイトでドラマでも観ようと思っていた。
でも、そのリビングとダイニングが一体となった部屋に足を踏み入れようとして、私の体は硬直してしまった。それから、手に持っていたスマホを落としそうになる。
部屋の入り口に立った私には、自分の足の先にある冷蔵庫が見える。その手前には、さっき置いたカフェオレの乗ったテーブルが少しはみ出しているのが。でもそんなの今どうでもいい。
キッチンの方で、子供の泣き声が響いている。でも、子供と言っても、少し大きい子で、男の子のようだ。だって、私にはその子が見えている。いる。冷蔵庫の足元に。
なんで？どうして？怖すぎるでしょ！
私の家にもちろん子供なんか住んでいなかったし、玄関は鍵を閉めていたんだから、子供が迷い込むはずもないし、ましてや。
向こう側が透けて見える子供なんかがこの世に居るわけがない！
私は立ったままパニックになって、その情景を眺めていた。子供は「母さん…母さん…」と泣いている。
恐怖で息が苦しく、歯の根も合わなかった私の体は、だんだんと正気を取り戻していった。子供はその間も、「母さん…どこにいるの……」と、母親を呼んで繰り返す。どうやら母親が見つからないらしい。
悲しいんだろうな。泣いてるんだし。私はだんだん、その気持ちが大きくなって、その分、恐怖が小さくなっていった。でも、怖くなくなったわけじゃない。充分怖い。怖すぎる。
「母さん……母さん……」
ねえ、そんなに泣かないでよ。幽霊でも、そんなにずっと泣いてちゃ、私まで悲しくなってくる。
「母さん……どこに行っちゃったの……」
私の足は力が入らず、喉が震え、体中の血管も恐怖に躍ったけど、部屋に一足踏み入れる。
もしかしたら、この時私の好奇心は恐怖に勝ったのかもしれない。もしくは、「子供が泣いているならなぐさめなきゃ」と思ったのかもしれない。
後から考えても、なんでこの時回れ右をして足音を忍ばせ、寝室に帰らなかったかが不思議だった。
するとその子供は急に顔を上げて、私を見た。
「ひっ………」
私が思わず細かく息を吸って、そのまま呼吸が止まるほど驚いている事に、その子は気付いてしまった。
泣くのをやめたその子は、不意に立ち上がる。えっ、ちょっと待ってよ。
「…ねえ、もしかして……」
その子はそう言いながらこちらに足を出した。ひえええ！
待って待って待って待って！来ないで！
私はそれを口に出す事は出来ず、思わず、思い切り後ずさった。するとその子は悲しそうな顔をして、自分も一歩後ずさる。
でも、私はその時、勇気が湧いてきた。
もしこの子が本当に幽霊で、私に取り憑こうとしたとしても、その時反抗出来るのは私自身だけなのよ。だからいつまでも怖がってなんかいられない！逃げるか倒すかしか道はない！倒す方法なんか知らないけど！
でも。と、私はそこで考えを変えた。
この子が私に取り憑くかしら。だってずっとさっきから自分のお母さんを呼んでいただけなのに。そんな悪さを働くのかしら。
ええい！考えているだけじゃわからない！
私はとりあえず冷房の設定温度は高めに上げて、洗面所に行って温かいお湯で顔でも洗おうと思って、ドアを開けた。廊下は夏なのになんだかひんやりしていて、おかしいなとは思ったけど、お湯で顔を洗って部屋に戻った頃には、なんだか眠くて仕方なくなっていた。
食事をしてから眠りたかったのに、私はベッドに横になってスマホをいじっている間に、眠ってしまった。
目が覚めたのは、朝の4時頃だった。枕元の時計は秒針を送りながら、それを愛想もなく私に知らせる。
参ったなあ、こんな時間に目が覚めても何もする事は無いし、今日の夕方の講義の頃には眠くて寝てしまうだろう。うーん。
しばらく目を閉じてみたけど、やっぱり眠れないので私は起き上がった。
どうせ眠れないならと、リビングにある飲みかけのカフェオレでも飲みながら、動画サイトでドラマでも観ようと思っていた。
でも、そのリビングとダイニングが一体となった部屋に足を踏み入れようとして、私の体は硬直してしまった。それから、手に持っていたスマホを落としそうになる。
部屋の入り口に立った私には、自分の足の先にある冷蔵庫が見える。その手前には、さっき置いたカフェオレの乗ったテーブルが少しはみ出しているのが。でもそんなの今どうでもいい。
キッチンの方で、子供の泣き声が響いている。でも、子供と言っても、少し大きい子で、男の子のようだ。だって、私にはその子が見えている。いる。冷蔵庫の足元に。
なんで？どうして？怖すぎるでしょ！
私の家にもちろん子供なんか住んでいなかったし、玄関は鍵を閉めていたんだから、子供が迷い込むはずもないし、ましてや。
向こう側が透けて見える子供なんかがこの世に居るわけがない！
私は立ったままパニックになって、その情景を眺めていた。子供は「母さん…母さん…」と泣いている。
恐怖で息が苦しく、歯の根も合わなかった私の体は、だんだんと正気を取り戻していった。子供はその間も、「母さん…どこにいるの……」と、母親を呼んで繰り返す。どうやら母親が見つからないらしい。
悲しいんだろうな。泣いてるんだし。私はだんだん、その気持ちが大きくなって、その分、恐怖が小さくなっていった。でも、怖くなくなったわけじゃない。充分怖い。怖すぎる。
「母さん……母さん……」
ねえ、そんなに泣かないでよ。幽霊でも、そんなにずっと泣いてちゃ、私まで悲しくなってくる。
「母さん……どこに行っちゃったの……」
私の足は力が入らず、喉が震え、体中の血管も恐怖に躍ったけど、部屋に一足踏み入れる。
もしかしたら、この時私の好奇心は恐怖に勝ったのかもしれない。もしくは、「子供が泣いているならなぐさめなきゃ」と思ったのかもしれない。
後から考えても、なんでこの時回れ右をして足音を忍ばせ、寝室に帰らなかったかが不思議だった。
するとその子供は急に顔を上げて、私を見た。
「ひっ………」
私が思わず細かく息を吸って、そのまま呼吸が止まるほど驚いている事に、その子は気付いてしまった。
泣くのをやめたその子は、不意に立ち上がる。えっ、ちょっと待ってよ。
「…ねえ、もしかして……」
その子はそう言いながらこちらに足を出した。ひえええ！
待って待って待って待って！来ないで！
私はそれを口に出す事は出来ず、思わず、思い切り後ずさった。するとその子は悲しそうな顔をして、自分も一歩後ずさる。
でも、私はその時、勇気が湧いてきた。
もしこの子が本当に幽霊で、私に取り憑こうとしたとしても、その時反抗出来るのは私自身だけなのよ。だからいつまでも怖がってなんかいられない！逃げるか倒すかしか道はない！倒す方法なんか知らないけど！
でも。と、私はそこで考えを変えた。
この子が私に取り憑くかしら。だってずっとさっきから自分のお母さんを呼んでいただけなのに。そんな悪さを働くのかしら。
ええい！考えているだけじゃわからない！