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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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電脳マーメイド

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39


 翌朝、さすがに飲み過ぎたのか、頭が重かった。それでも目覚めた時、とても幸せな気分だった。昨夜は結局それだけで、ベッドは別々に寝た。
 お酒臭さを洗い流すようにシャワーを浴び、浴室から出てきたところで、ちょうど目覚めた彼と鉢合わせしてしまった。
 お互い、ドアの向こうとこちらで固まってしまう。
 彼が急いで立ち去るのと、私がドアを閉めるのが同時だった。
 タオルを体に巻いて出る。
「ごめんなさい。私の部屋のを使うべきでした」
「いや、私の方こそ不注意で」
 彼が目を逸らしながら言う。
「ささっと着替えますね」
 そうは言ったものの、荷物は私の部屋に置きっ放しになっていることに気づく。「ごめんなさい。荷物が……」
「仕方ないですね。取ってきますよ」
「すみません。鞄ごとでいいので」
 彼が部屋を出てゆく。その間に手早く体を拭った。
 彼が荷物を持って戻ってくると、私はお礼を言って中から着替えを出した。
「私もシャワーを浴びますね」
 私のようにならなうよう、彼は着替えを持って浴室に入った。
 20分後、彼はすっきりした面持ちで浴室から出てきた。Tシャツに短パン姿というラフな格好は、チェックアウト前にもう一度着替えることを意味していた。大使館ではいい加減な格好はご法度だからだ。
 朝食のために、並んでロビーへ降りる。メニューは昨日の朝と全く同じだった。酩酊した状態での入館は戒められているので、今朝は飲んでいる人は一人もいない。
「いま食べておかないと、次に食べられるのは3時頃ですよ」
 彼が言う。あまり食欲がないものの、お粥があったので私はそれにした。彼は昨日と同じく焼き飯にオムレツ、それにケチャップをかけている。あれだけ飲んでも平気だから大したものだ。もっとも彼の大酒飲みは今に始まったことではないのだけれど。
 食事を終えて、コーヒーを飲んでいると、彼の友人たちが降りて来た。
「みずやん、おはよう。早いね」
 そして私の方に向き直る。「エレノアさんも、おはよう」
「おはようございます」
 私は軽く会釈した。
 彼が二人分のコーヒーを持って来てくれる。
「ラオスはコーヒーも美味しいんですよ」
 食事に架かる二人から離れて、外のテーブルに落ち着く。
「これって、いつも飲んでるのと同じですね?」
「そう。バンコクでも手に入りますからね。でも、何故か本場で飲んだ方が美味しく感じられるんです。不思議とね」
 彼が一口すすって煙草に火を点ける。風向きは私の方から来ているので、煙は彼の後ろへと流れてゆく。
「集合時間までにはまだまだありますが、どうします?」
 彼が訊く。「私はもうひと眠りしたい気分なんですが」
「じゃあ、私も一緒に」
「それじゃ、寝られないじゃないですか。第一、エレノアさんはもう着替えてしまっているでしょう」
「そんなの、脱いじゃえばいいんですよ」
「二人して寝坊するつもりですか?」
「冗談ですよ」
 私は笑った。
「質の悪い冗談はよしてください」
「ごめんなさい」
 私は肩を竦めて見せた。
 そういうことで、彼は寝ることを諦めたようだった。
「エレノアさんは、眠くはないんですか?」
 しばらくして、彼が訊く。
「私は元々朝は強い方なんです。今朝は少しお酒が残っていましたけど、今は大丈夫です」
「私は、朝はどうしても苦手でね」
「ええ、知ってます」
「参ったな……。そう何もかも知られていると」
「深酒しなければ、健一朗さんも早起きになりますよ」
「そうでしょうか。こればっかりは幼稚園児の頃からなんですが」
「そんなに前から!」
「もちろん、飲んでたわけじゃありませんよ」
「分かってます」
 そんな他愛のない会話をしながら時間を潰す。
 十時半頃になって、ツアーガイドの女性達が降りて来た。私たちはそれぞれコーヒーのお代わりを貰って、いい加減暑くなってきたのでロビーに落ち着いた。
 ガイドの人たちがようやく食事を始めたということは、時間はまだ余裕があるということだ。そこへ、彼の友達がやって来る。
「みずやん、これで何回目?」
「5回目ですよ」
「じゃあ、俺と同じだな」
 コーヘーと名乗った方が言う。「そろそろヤバくなってきた」
「何がヤバいんですか?」
 私は訊いた。
「うん。リマークのことさ。3回までは大丈夫なんだけど、それ以上だといつリマークスタンプを捺されるか冷や冷やなんだ。もし押されてしまうと、もうビザの延長が出来なくなる」
「そうなんですね」
「エレノアさんは大丈夫ですよ。初めてなんだし」
 彼が言ってくれる。
「でも、もし健一朗さんが捺されてしまったら……」
「90日以内にパスポートを更新するか、他のビザに切り替えるかしないといけませんね」
「随分と面倒なんですね」
「どっちにしろ90日は猶予がもらえる。まずは60日、それからイミグレーションで30日延長までは何とかなりますから」
 彼らとビザについてひとしきり話し合った後、ようやくガイドが集合をかけた。一人ずつ名前を呼ばれ、番号札とパスポート、それに千バーツの現金が手渡されてゆく。全員の手にそれらが渡ってから、これからの注意事項が述べられた。
 ノースリーブの女生と半パンの男性は着替えるように指示を受けていた。
 そして、外に待たせてあったタクシーに乗り込み、いよいよ大使館へと向かったのだった。
作品名:電脳マーメイド 作家名:泉絵師 遙夏