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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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電脳マーメイド

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エレノア×ライラ


 マドリッド発バンコク行き。
 気がつくと、機中の人だった。
 アテンダントが機内食のオーダーを取る。
 ノンべジかベジタリアンか。
 とりあえず、ノンべジと伝える。
 飲み物は――
「えーと、バーボンはありますか?」
 口をついて出る。
「ウィスキーなら、ありますが」
 アテンダントが言う。
「じゃあ、ビールで」
 どちらも飲んだことはない。そもそもアルコールなんて、口にしたことも。
 栓を開けて、プラスチックのカップを被せた缶を渡される。
「ありがとう」
 私は微笑んで、それを受け取った。
 エコノミーの機内食など、どうせ大したことはない。
 そう思いつつ、アルミの蓋を取る。
 マトンのソテー、マッシュポテト。
 まあ、こんなものか。
 私は適当に切って口に運ぶ。
 あれ――
 これって、こんなに美味しかったっけ?
 それに、パンもすごく美味しい。
 ビールを一口含む。
 思わず噎(む)せそうになる。
 どうしてビールなど頼んだのか分からない。
 あんなにビールを美味しそうに飲んでたのに――
 え? 誰が――?
 決まってるじゃない。
 彼が。
 彼って――?
 健一朗――
 それは、誰――?
 私は、誰――?

 デスティネーション・クライメィト33ディグリーズ、レイター・フロム・オンタイム――
 機内放送が流れる。
 バンコク、スワンナプーム空港。
 定時より15分遅れ。
 中央席の私には、外はあまりよく見えない。
 ただ徐々に下降しているのが分かるだけで。
 そして、衝撃と共にランディング。
 体が引っ張られる感覚。
 そのあと、駐機ポイントまでの退屈な時間。
 指示のあと、頭上の収納スペースから荷物を取り出す。
 持って来た覚えもないのに、自分の荷物だと分かる。どうしてだか。
 人の歩いて行く方について行く。
 私がどうしてここにいるのか分からない。
 私は確か……。
 ポケットからインターフェイスを出す。
 通信機能はOFFのままだ。
 エリア設定をONにすると、たちまち見たくもないメッセージが表示される。
 
 どこに行った?
 逃げるのか?
 そのまま死ね。
 学校は?
 恥ずかしくない?

 聞きたくない! 見たくない!
 その文字の羅列。
 その中に。
――助けて
 助けて
 好き
 好き
 好き

 私は、その文字に吸い込まれて行った。
 パスポートコントロールに並んでいる間、係員に書類の提示を求められる。
 パスポートを見せると、何故かアセアン専用のカウンターに案内された。
 国籍は……フランスなのに。
 入国手続きを済ませ、機内預け荷物を受け取る。
 ノークレイムの出口を通り、外に出る。
 私はどうしてここにいるんだろう?
 ポケットをまさぐる。
 よれよれのタバコのパッケージが落ちる。
 それを見て、無性にタバコが吸いたくなった。
 自動ドアを抜けると、途端に南国特有の熱気がまとわりついてきた。
 私はそれにも構わず喫煙コーナーを探す。
 ほどなく見つかったそこで、タバコに火を点ける
 途端に咳き込む。
 こんなもの、なんで持ってるんだろう?
 でも、なんかおかしい。
 これは――
 分からない。
 なんだか、頭がほわっとする。
 東洋系の男性が声をかけてくる。
 私は急いで逃げた。
 おかしい。
 おかしい――
 これは、私じゃない――!

 私は誰?
 私は、エレノア。
 私は……
 ライラ……
 そう、私はライラ。
作品名:電脳マーメイド 作家名:泉絵師 遙夏