電脳マーメイド
プロローグ2. エレノア
ジブラルタルの断崖。
かつて世界の果てと言われた絶壁。
その縁に立って、エレノアは風を受けていた。
もう、終わりにしよう。
これ以上、生きていても……
手にした端末に、最後のメッセージを入力する。
私は、あなた達が嫌いです。だから――
端末を持つ手を降ろす。
まあいい。
もはや、この世界に未練はないから。
エレノアは崖の向こうの空間に一歩を踏み出そうとする。
「え? 何?」
端末のバイブレーションに気づき、エレノアはディスプレイを見つめる。
――好き、好き、好き! 助けて私を! お願い!
ディスプレイに表示される、好きという文字。
延々と、延々と。
好き。
好き――
そう……
好き――
左手の甲に痛みが走る。
生体認証チップが埋め込まれている場所が輝いている。
それは光度を増し、エレノアを包み込んだ。