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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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電脳マーメイド

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 私はインターフェイス端末でSNSにエレノアの新しいアカウントを作った。
 名前は、Lyla M。三潴(みずま)ライラ。
 ちょっと照れくさくなって、笑みが漏れる。
 三潴ライラ。
 そうなりたい、いつか。
 ときどき彼の方を見ながら、ディスプレイに目を落とす。
 あまり見つめたら不躾で、かえって邪魔になるんじゃないだろうか。
 そう思ったから。
 彼のアカウントをフォローする。
 通知音。
 彼は一瞬だけ端末に目をやり、すぐにコンピュータに目線を移す。
 その間、私はSNS内の彼の言葉を追う。
 データとしてではなく、文字として初めて見る彼の言葉。
 時に厳めしく、時に優しく、そして切なく哀しい言葉の数々。
 あの時の私には出来なかったこと。
 でも、エレノアの何かが反応して涙が零れる。
「どうかしかしましたか?」
 鼻をすすり上げるのに気づいて、彼が私を見る。
「いえ、ちょっと……」
「寒いですか?」
 エアコンが入りっぱなしになっていることを、彼は気にする。
「すこし」
「じゃあ、弱めますね」
「どうぞ、気にしないでください」
「いいですよ。扇風機もありますから」
 彼は立って、操作パネルで設定を変えてくれた。
「ありがとうございます」
 立ったついでに、彼は端末を見る。
 私のフォローに気づいてくれるだろうか。
 彼は一瞬だけ私を見て、また端末に視線を戻す。
 気づいてくれたはず。
 そして――
――今夜は、それほど気分は悪くありません。書けないのはいつものこと――
 表示される彼の言葉。
 そうか、彼は私のことを迷惑とは思っていないんだ……
 彼を見る。
 でも、彼は私の方を見ない。
 ありがとう――
 返信はせず、心の裡だけで言う。
 その後、他の人と何件かやりとりしてから、彼は再び作業に戻ろうとする。
「すみません、充電させてもらってもいいですか?」
 そろそろ端末のバッテリーが切れそうなので、私は言った。
「ああ、どうぞ。そんなこと、気にしなくてもいいです」
「でも、電気代が」
 彼が笑う。
「エアコン代に較べたら微々たるものです」
「はぁ……」
 ベッド脇の延長タップに充電器を挿す。
 新しく作ったアカウントには、エレノア宛のメッセージは来ない。
 これは、私専用のもの。
 彼女は、きっと苦しかったんだろうと思う。
 健一朗のように、苦しみ、哀しみ抜いて自分を棄てた。
 世界には、彼のように苦しんでいる人は幾らでもいるのかも知れない。
 その人たちも私と同じような端末を持っているとしたら、その端末には意識はあるのだろうか。
 私みたいに、その持ち主に思いを寄せて、助けたいと思っている意識が。
 もし、それが私だけだったとしたら――
 急いでその考えを振り払う。
 きっと、みんなそう思ってるはず。
 だって、誰よりもその人の近くにいて、その生の声を聞いているんだから。
 そう、きっと私みたいに――
 Qui suis je?
 私は、誰?
 知らない間に、書き込んでいた。
 当然、反応はない。
 その文字を見つめる。
 私は、誰?
作品名:電脳マーメイド 作家名:泉絵師 遙夏