電脳マーメイド
55
優しく語りかけてくれる声。
今まで、こんな風に語りかけてくれた人がいただろうか。
私が私のままでいいと、安心させてくれる人がいただろうか。
暖かい手の感触。
それが全てを語っているかのような、温もりに満ちた手。
私は、誰かに助けられたのだろうか。
確か、ジブラルタルの断崖から身を投げたはず。
ひょっとして、あれは悪い夢だったのだろうか。
周りには誰もいなかった。
だから、海に落ちてから助けられたのか。
そんなことはない。
あの高さから飛び降りたら、私の肉体は原形を留めてはいないはず。
じゃあ、今ここにいる私は誰?