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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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電脳マーメイド

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「眠れないのですか?」
 ベッドに戻った私に、彼が訊く。
「ごめんなさい。起こしてしまいましたか」
「それは構わないのですが」
「やっぱり、調子がよくなくて」
「眠れない眠れないと思っていると、却って苛々しますからね」
「はい……」
「しばらく、お話ししましょうか」
 電気は点けないまま、彼は冷蔵庫からビールを出す。「お付き合いしますよ」
「ありがとうございます」
「どうってこと、ないです」
 彼は栓を抜いて、グラスにビールを注いだ。「さて、何を話せばいいのでしょうか」
「じゃあ、健一朗さんの子どもの頃のお話とか」
「ふむ……」
「ほら、少し怖いお話があったでしょう?」
「ああ。あの夢と現実が混ざったようなお話ですね」
「ええ」
 それは、彼の幼少の頃のお話で、親しくしてくれた人にまつわるものだった。
「普通に考えたら、それは子どもの空想でしかないのでしょうけど、私の場合は大きくなってからその場所を実際に訊ねているんですよね」
「その場所は、夢に出てきたままだったんですよね?」
「でも、少しずつ違う所もあるんです。途中に通った公園とか、雰囲気が違いました。ただ、その家があった場所だけは、はっきりと覚えているんです」
「不思議なことも、あるものですね」
「私は元々霊感体質なので、その影響もあるのかも知れませんが」
「そう言えば、実体験に基づいたホラーも書いてますよね」
「ええ。嘘のようですけど、一切の脚色無しのノンフィクションです」
「健一朗さんは、幽霊を信じる方なんですね」
「うーん、どうなんだろう?」
 彼が首を傾げる。「信じるというより、存在自体を認めてるからなあ」
「それと、信じることと、どう違うんですか?」
「実際にあるものは信じることは出来ないでしょう? 例えば今、ライラの目の前でビールを飲んでいる私がいることを、信じると言いますか?」
「言わないです。だって、健一朗さんは確かにここにいるから」
「でしょう? 信じるとは、不確定な物事を肯定的に受け止めることを言うのです。分かりきったことは理解こそすれ信じることそれ自体が出来ません」
「私は――。私は、最近自分のことが信じられなくなります。それが恐ろしいのです」
「大丈夫ですよ」
 彼が言ってくれる。「ライラは、確かにここにいる。難しいことを抜きにして」
「ありがとう」
「だから、安心なさい」
「手を――手を握ってもらえますか」
「うん」
 彼が、私の手を握ってくれる。
 ただそれだけで、安らかな気持ちになれた。
 彼はあたかも病気になった子どもの看病をするかのように、私の前に座ってくれていた。
 彼は、私を私だと信じてくれている。
 だから私は、私でなくてはならない。
 健一朗さん、お願い。
 どうか私を繫ぎ止めていて。
作品名:電脳マーメイド 作家名:泉絵師 遙夏