電脳マーメイド
53
エレノアが叫んでいる。
悲痛の叫びを上げている。
人は死んでもなお、心は残るんだろうか。
それとも生きた肉体がある限り、魂も残るのか。
私はライラ。
エレノア、あなたはもう死んだのよ。
自ら望んで死んだんじゃないの?
私はライラ。
エレノアはもういないのよ。
だから、私たちの邪魔をしないで。
私には、健一朗しかいないの。
彼と一緒に生きていくって決めたの――
目覚めると、汗びっしょりだった。
夢の中で、エレノアが援けを求めていた。
エレノアは、あの時に死んだはず。
なのに、どうして今になって……
私はベッドから起き上がった。
隣では彼が、安らかな寝息を立てている。
そっとベッドから抜け出してテーブルの上に置きっ放しになっている煙草のパッケージから一本抜き取る。
ベランダへ出て煙草に火を点けた。
少し吸っただけで咳き込んでしまう。
どうして、煙草なんか吸おうと思ったのだろう。
エレノアは煙草を吸っていたのだろうか。
私は黙って煙草が短くなるのを見ている。
それはあたかも私に残された時間を暗示しているようだった。
駄目よ、エレノア。
彼は私のものなんだから。
私たちの邪魔をしないで。
寝るのが恐ろしかった。
もし起きた時、私が私でなかったら?
エレノアにこの身体を取り戻されていたら?
そんなこと、許さない。
あなたは自分の身体を棄てたのよ。
それを拾ったのが私。
今さら返せというのは無茶よ。