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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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電脳マーメイド

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「気晴らしに、公園にでも行きますか」
 食事の後、彼が言った。「ずっと部屋にこもりっきりだと、気も滅入ります。太陽の光を浴びることも、たまには必要です」
「そう、ですよね」
 私は力なく笑った。
 本当は、そんなことではないのだ。でも、彼の気遣いが嬉しかった。それに、彼が言うように、たまには広い所へ出かけるのもいいと思った。狭い空間に閉じこもったままでは、心も閉塞してしまうのかも知れない。
 外行きの服に着替え、バスに乗る。以前、ウィークエンド・マーケットで降りた手前のバス停で降りた。そこは高架鉄道との乗換駅ということもあり、結構な人でだったが、一旦公園内に入ると広々とした空間が拡がっていた。池を配した園地には、ところどころにピクニックに来ているグループの姿も見える。ビルが林立するバンコクにあって、ここはぽっかり穴が開いたように空が高い。
 都心部からも少し離れていることもあり、空気も幾分爽やかに感じられた。
「たまには、こういう場所もいいでしょう」
 彼が言う。
「そうですね。なんだか気分がリフレッシュされるようです」
「人間も生き物ですからね、たとえ造られたものではあっても、こうした自然の中に身を置くと落ち着くようにできているんですよ」
「確かに、そうかも知れませんね」
 そうは答えたものの、元はと言えば機械知性の私でも同じなのだろうかと疑問が湧く。しかし、この肉体は確かに有機体であり人間本来のものである以上、彼の言うことは遠からず正しいのだろう。
 広い園内を散歩していると、子どもたちがはしゃぎながら、追い越して行った。バンコクにいて不思議なのは、平日の日中にもかかわらず子どもが外で遊んでいることだと、彼も言っていた。
 池のほとりの草地に腰を下ろし、水面を行く鳥を眺める。彼の肩に頭を預けていると、そのまま彼の身の内に溶け込んでゆきそうな安らぎを覚えた。彼が私の頭に手を置き、そっと髪を撫でてくれるのも心地よい。
 まるで絵に描いたような幸せ。こんなに幸せでいいのだろうかという恐れとないまぜになった幸福感に心揺蕩わせる。
 ずっと、こんな時間が続けばいいのに。
 いや、いっそのこと、このまま時間が止まってしまえばいいのに。
 ランニングしている人がいる、散策している人がいる、ベンチに掛けて本を読んでいる人もいる、楽しく会話しながら歩いて行く学生たちがいる。そんな日常の中に、私たち二人もいる。
 そのごく当たり前のことが、とても幸せに感じられる。
 幸福とは、幸せだと感じられることだと、彼も作品のどこかで書いていた。
 今だから言える。それは真実だと。
 幸せだと感じるから幸せなんだと。
 だから、幸せには形がないんだと。
作品名:電脳マーメイド 作家名:泉絵師 遙夏