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新崎かっこ
新崎かっこ
novelistID. 68143
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結婚

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学生時代の友人4人と久しぶりに飲みに行くことになった。
 大衆居酒屋で焼き鳥とビールをたいらげた後、二次会として私の行きつけのバーへと向かった。
 バーは飲み屋が集まるビルの地下にあり、とても静かだった。他に客もいなかった。私達はカウンターを陣取り、各々に好きな酒を注文して飲み始めた。


 友人達の顔を見ながら、時の流れを感じていた。私達が学生だったのは、もう20年以上前のことだ。
 大学を卒業してから友人達は、次々に結婚した。


 S氏は猫と結婚した。
 彼の妻はトイレの場所が覚えられず、家中のあちこちに放尿することがよくあった。彼は最初の内こそ気にしていなかったそうであるが、ある真夏の日に放たれた尿の強烈な匂いに神経が切れて、その夏の終わりに離婚してしまった。


 H氏は駝鳥と結婚した。
 彼らは大変仲むつまじい夫婦であった。しかし、妻が撒き散らす羽毛によって彼の喉や鼻は次第に異常を来すようになり、一時入院する事態にまで陥った。彼らは泣く泣く別居したらしいが、そのうち離婚したという。


 N氏は縞馬と結婚した。
 結婚して数年後、彼は仕事でパソコンに向き合う時間が増え、目を痛めていた。だから家に帰ると妻の身体の縞模様にうんざりするようになったという。今でも毎日のように口喧嘩が絶えないのだそうである。


 T氏は狐と結婚した。
 きりりとした顔立ちの美しい妻であったが、よく周囲の者を化かす癖があった。彼は妻にその癖を直すよう何度も注意したが、妻にとって化かすことは生活の最大の楽しみであったので、決して直すことをしなかった。次第に彼は、彼自身が妻に化かされることを恐れるようになった。家に帰らない日が多くなり、数年で離婚した。


 「そういえばお前、奥さんとうまくやってるのか?」
 N氏にかけられた言葉に私は動揺し、思わず正面にいるマスターの顔を見てしまった。マスターは顔色一つ変えずにカクテルを作り続けていた。


 私は人間と結婚した。
 結婚して数年経つと、妻はひどくおしゃべりになった。そして毎日のように私をけなし、疎ましく扱うようになった。私は妻とは反対に無口になってしまった。
 私はよくここのバーに通い、マスターに仕事や家庭の愚痴をこぼすことがあった。その中には妻に対するものが多分に含まれていた。


 「どうぞ」
 N氏から投げかけられた話題にうやむやな返事をしていると、マスターがカクテルを5つ差し出した。
 「フローズン・マルガリータです。こちらのお客様にはいつもご贔屓にしていただいておりますので、今日は一杯、皆様にサービスさせていただきたいと思います。」マスターは私に向かって軽く会釈した。
 友人達は口々に感謝の言葉を述べてから、そのカクテルを飲み始めた。私はその白く、淡雪のようなカクテルを見つめた。


 どうも結婚とは幸福への道などではなく、そこを目指して真っすぐに歩いていたのに、途中で必ず悪路に迷い込んでしまうような――そのようなものに思われる。生物は皆、結婚などしない方がよいのである。
 そんなことを思いながら、マスターからの助け舟を一口飲むと、その冷たさが歯にしみた。


                       おわり
作品名:結婚 作家名:新崎かっこ