黄昏クラブ
エピローグ
「お母さんそれって……」
さすがの真紀理も、声を詰まらせる。
「不思議な話でしょう?」
「その吉井のどかって、とっくの昔に卒業してたのよね。まさか、同姓同名ってわけじゃないよね」
「それは、ちゃんと調べたわよ。過去の卒業アルバムにあった写真は、確かに彼女だった」
「幽霊……じゃないよね? その人は死んだわけじゃないんだから」
「たぶんね。少なくとも、卒業するまでは生きてたのは確かね。その後のことまでは知らないけど」
「生霊……」
真紀理が呟く。
「そんな、おどろおどろしいものじゃなかったわ。彼女には確かに実体があったし、体温もあった」
「それは、私には分かりようがないなあ。でも、お母さんのファーストキスの相手が女の子だってのには驚いたけど」
「もう、その話はよして」
私は苦笑する。「ついでに言っとくとね、昔の卒業アルバムには巻末に住所録が載っていて、それで彼女の住所を調べてもみたのよ」
「まさか、訪ねて行ったとか?」
「その、まさかよ」
「へえ、なかなか行動力あるじゃん」
「でもね、更地になってた。マンションが建つって看板が立ててあっただけで、フェンスの向こうは何もなかったの。アルバムには電話番号も載ってたけど、さすがにね……」
「うん。怪しまれるだけだもんね」
ふうっと私は息をつく。
「そっかあ……。あの学校も、もうないんだ……」
「ああ、去年統合されたんだったね」
遠い目をする私に、真紀理は言った。「ねえ。もし戻れるとしたら、もう一度高校生やりたい?」
「うーん。微妙だな」
「どうして?」
「ここに、あんたがいるからよ」
「それ、邪魔ってこと?」
「馬鹿。その逆よ」
私は娘の髪をくしゃっとしてやった。
「さあさあ。もうお話はお終い。さっさと片付けてしまわないと、日が暮れるわ。あんたはカップをキッチンに運んで」
私は勢いをつけて立ち上がった。