黄昏クラブ
グラウンドの方から、ラグビー部の練習の掛け声が聞こえてくる。
「野球部とか庭球部は遅くまで残ってもいいのにね」
それは、私も同感だったから、無言のまま頷いた。
「手を動かせ、体を動かせって、脳が働かないと、体も手も動かないのにね」
「うん……」
少女の背に向かって、相槌を打つ。
その後、しばらく彼女は何も語らなかった。
そもそもが、ひとり言だったのかもしれないが、私はその間、鞄を下げたまま戸口に突っ立って逆光の少女を見ていた。
はっきりとした日付までは定かではないが、それが私と彼女が出会った最初だった。
覚えているのは、私が三浦綾子全集第五巻の『残像』を読んでいたこと、そして中間試験が終わった直後だったことだけだ。
「ふうん」
真紀理が微妙に口を結ぶ。「帰宅しそこない部か」
「かもね」
私は否定もしない。
「それで、その三浦綾子って人の小説って、面白いの?」
「面白いの意味にもよるけど、いいお話よ。読んで損はないわ」
「貸してくれるなら、読んであげてもいい」
「たぶん、あんたの学校の図書室にもあるはずよ」
「そうなんだ。じゃ、今度の読書感想文のネタにでもしようかな」