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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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津軽の風は夢を運ぶ

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 しばらくデッキでぼんやりして、私は二等席に戻った。今後の予定は時刻表とにらめっこをして完璧なまでに組み上げてある。座席に身を沈めると、そのまま眠りに落ちてしまった。最初に乗った急行「きたぐに」が登山客で満席で、敦賀辺りで車掌さんに起こされて空いた自由席に座らせてもらったけれど、やっぱりよく眠れなかった。新潟からの特急でも途中の温泉のある駅から団体客が乗って来て宴会をしていて、きちんと休めなかった。下手したらからかわれたりもしたから余計に。生まれて初めて大金を持って移動している緊張感もまた、眠りの妨げになった。
 私が眠りに落ちたのは津軽の山並みが見えなくなった頃。津軽海峡が穏やか過ぎて拍子抜けして寝てしまったというのが正直なところだった。
 だって、歌にも小説にも津軽海峡って荒波のイメージがあったから。
 で、目が覚めたのは函館近くになってから。外はもう真っ暗。午後4時出航だから当たり前だ。
 船内アナウンスで何か言っている。
 私はそれをよく聞きもせずにデッキへと出た。
 函館の街明かりはまだ見えない。手前の函館山が邪魔をしているのだ。その頂にある展望台の灯がよく見えた、
 時おり、フラッシュを焚いたような閃光に函館山の輪郭がくっきりと浮かび上がる。
 ええー? いきなり雨なの!?――
 私はそれを雷だと思ったのだった。
 でも――
 それは杞憂だった。私の予想は見事なまでに裏切られた。
 それまで何度も閃いていた雷のような光は、しばらくおさまっていた。
 八甲田丸は、函館港へと着岸体制に入っていた。雨は降っていない。
 ルュゥゥゥゥゥ……
 連絡船特有の哀愁に充ちた汽笛が鳴る。
 その瞬間。
 あちこちから一斉に花火が上がった。
 汽笛が合図となり、函館の夜空が花火で彩られた。
 船内放送で花火の案内が流れると船客が皆デッキに出て来た。
 汽笛と花火、その共演。雷だと思っていたのは、実は花火だったのだ。
 ああ、なんてことだろう!――
 はじめての北海道で花火大会に迎らえれるなんて――!!
 こんなのって、奇跡じゃない?
 私はデッキで涙した。まだ北海道の地を踏まぬままに感動の極みにあった。
 ああ、来て良かった――!
 昭和61年8月1日、私は初めて北海道の地に自分の足で立った。