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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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このコーヒーを飲み終えたら

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「このコーヒー美味しいな」

(そうだ。思い出した。これ、いつも母さんが淹れてたコーヒーだ)

(紗英と隆志なんて家族は俺にはいないや・・・二人は確か母さんの知り合いで、あの踏切で事故に遭った親子だったよな)

(・・・・・・本城奈美恵。・・・そうか覚えてるぞ。俺が中学の頃、同じあの踏切で自殺したクラスメイトだ)

(なんでそんな人たちが、俺の夢に出てくるんだ? まったくおかしな話じゃないか)

(カウンセリングのメンバーもきっと僕に関係のある人たちだったんだな。或いはその悩みは僕の心理そのものかも・・・)

 達也は少し笑った。

********************

「まさか父さんまで、あの事故で亡くなったなんて、知らないわよね。鉄道事故を無くそうと、そういう仕事に就いたのにね」
松井かなみは、病室のベッドで眠る達也にそう話しかけた。

「お母さま、本当にいいんですね」
「既に3か月この状態が続いて、回復の見込みがないなら。息子にこれ以上辛いことを続けさせたくありません」
そう言いながら、植物人間となった息子の手を握って、涙を流した。
「この子が最後のコーヒーを飲み終えるまで、待ってやってください」

 主治医の町田は、サイドテーブルに置かれたコーヒーカップを見て、
「ではコーヒーが冷めましたら・・・」

 やがて生命維持装置は外された。

*********************

 達也は深い意識の奥底で、母親の淹れたコーヒーを飲み終えた。どこかでお代わりを聞かれたような気がしたが、
「本当にいいの?」
「大丈夫です」
そして冷静に息を整えて、目を覚まそうと努力した。

「起きられ・・・。目を覚ませない。・・・あれ? 何か変だ。・・・何も考えられなくなってきた。・・・何も感じない。眠い・・・眠い・・・でも眠りたくない・・・ああ、・・・・・・夢の中でも眠れるんだな・・・・」


     完