あり得たかもしれない現在、そして未来
ここヤーマト国も例外ではなかった。人びとは次々と感染していった。幸いなことにヤーマト国の医療はほかの国よりも進んでいたので重態化して死亡する人は少なかったが、それでも人びとの恐怖は高まるばかりだった。
ヤーマト国の人びとの不安と不満が最高潮に達したとき、ついにヤーマト国の与党ミーンシュ党が動いた。早い段階で野党ジーミン党が協力すると表明していたにもかかわらず、我々だけで十分対処できる、余計なお世話だ、と拒んでいたミーンシュ党がやっと行動を起こしたのである。
彼らミーンシュ党が打ち出した策とは?
・隣国であるカーン国から精度の悪い検査キットを高額で輸入し、国民を片っ端から検査しまくった。しかも、検査場に多くの人を一堂に集めての検査だった。
・精度の悪い検査キットで陽性反応のあった大量の人びとが病院へと送られた。病院はすぐに埋まり廊下や階段、トイレにまで患者が溢れることとなる。
・官房長官のエダーノは「感染しても直ちに人体への影響はない」と根拠のない妄言を繰り返すばかり。
・混迷を極めた病院では、精度の悪い検査キットに頼らずにサイコロを振り、丁半で感染を占う医師も現れた。後の検証ではカーン国製の検査キットよりもサイコロ占いの精度が高かったことが判明する。
・地獄絵図か展開されるている病院へ、時の首相カーン・ナオートは嬉々として乗りこんでいく。もちろんテレビクルーを連れたパフォーマンスである。
・首相は「私は病原体の専門家だ」と嘘までつき、デタラメな指示を次々と医師たちに伝えた。国民からは「お前が病原体だ!」と一斉にツッコまれた。(このときの様子は後に「Doctor’s 50」として映画化される)
・国内に多くの感染者を抱え医療品不足が叫ばれる中、ミーンシュ党は「アージアの友人たちへ愛の手を」と大量の医療品をシーナ国とカーン国へ寄贈した。ミーンシュ党にとってアージアといえばこの2カ国だけらしい。
・ほかの国々が他国からの流入を禁止する中、ミーンシュ党の元首相ハートヤマは「今こそアージアの国々が手を取り合い、向かい合って病原体に立ち向かおう」という宇宙人も真っ青な理論を披露する。
・この謎理論を受けてミーンシュ党は、「シーナ国」と「カーン国」からはパスポートなしでの入国を許可する法案を早々に成立させた。
・当然のように、万が一に備え両国からは少しでも高い医療技術のあるヤーマト国へと人びとが難民のように殺到する。
・それらの国の人がヤーマト国で感染が確認されると、ミーンシュ党政権は、ホテルを全棟借り切って受け入れ、手厚い看護で「お・も・て・な・し」をした。当然、高額な慰謝料と謝罪付きでだ。
・ヤーマト人が十分な医療を受けられず死亡するケースが増えてくる。
・ミーンシュ党は健康保険制度を廃止し、ヤーマト人は医療費の全額を負担させられる。
・そればかりか高額な保証金までヤーマト人は接収されることになった。死亡時は返還されず没収である。
・ヤーマト国中の大混乱をよそにミーンシュ党は涼しい風、馬耳東風、蛙の面に小便であった。
・漸く悪夢のような病原体騒動が惑星レベルで収まると、進んだ医療を有していたはずのヤーマト国が一番の惨状だった。
・それでもパフォーマンス好きのカーン・ナオートは「我々の力によりヤーマト国は浄化されました。これからはより一層アージアの人びとと手を携えともに歩みましょう」と満足げに演説をした。
そして、
ヤーマトの地に残されたのは、疲弊しきったヤーマト人と日本へ入国して大金をせしめたシーナ人とカーン人たち、そして縮小された国土。
デッカイドーもオーキナワ・キューシューもすでに他国の手に渡っていた。破綻したヤーマト国の財政を回復させるため、ミーンシュ党政権はこれらの土地を格安で大国に売り渡したのだった。
そして、これら一連の出来事がヤーマト国の歴史教科書に記載されることは未来永劫なかった。
(了)
作品名:あり得たかもしれない現在、そして未来 作家名:立花 詢