電子の海辺でお茶を飲む
「そこそこ暖かくなってきたから海に行きたい」
彼女の言い分である。粋は遊べれば別にどこでも良かったが、彼女はそうではないらしい。行動力があるのだから、一人なら何処へでだって行けそうな気がする。それでも粋と一緒に行きたいと言うのだから嬉しい限りだ。けれど近くに海はない。海を見るためには遠出をしなければならないが、宿を取る程の経済力はまだ持ち合わせていない。アルバイトをすれば良いのだけれど、校則によりアルバイトは禁止である。未成年のうちに経済力を高めても悪くないのでは、と思うのだが校則は基本的に守る。バレなきゃ良いなどとは言わない。案外、世界は狭いのだ。片田舎ならば尚更だ。
「土日の休みで海を見て帰るのにも、絶妙に微妙な距離なのね」
「提案があります」
「発言を許します」
手を上げれば頷いて、どうぞと発言を促される。
「海に行った気分で過ごすと言うのは如何でしょう」
「例えば」
「此方にスマートフォンがあります」
粋のスマートフォンで検索された無料動画配信サイトから海の音を再生する。ザザザッというノイズとは違う響きが二人を包む。これだけでも粋は癒される様な気がして、お気に入りに登録していた。
「藍海ちゃんのスマホで海の画像を検索すれば、少しはそれっぽくない?」
他人の物を勝手に弄る訳にもいかず、検索してみないかと促してみると藍海は首を傾げた。
「それならパソコンで海自体の動画探した方が効率的じゃなくて?」
「あっ、なるほど……」
粋の家にあるのは父のゲーム機ぐらいで、パソコンはない。スマートフォンでも海の音を気に入って再生していたが、海自体を見るなどなかったためウッカリ頭から抜け落ちていた。
「うちにパソコンあるから、良ければうちに来ない? インドアな休みと、海璃くんいるかもしれないけど」
「良いの?! 是非!!」
こうして海辺に座っている気分で、三人パソコンの前でだらだらするのであった。
作品名:電子の海辺でお茶を飲む 作家名:楡原ぱんた