貢物は甘露で
特に食事時だ。
食べる動作はさして咎められないが、味がどうのという会話はNGワードである。理由は悲しくなるから、らしい。美味しいなら美味しいだけがいいとのこと。不味いなら不味い。味の好みは人それぞれだから、食べ終わった後にテレビを見ながらの会話ならば聞く。意味がわからない。しかし作る側にとっては重大だ。モチベーションに関わる上に、作らない奴に何も言われたくない。もっともだ。粋は手伝うが、影澄は不器用で皿洗いすらまともにこなせない。かわりに掃除は得意なようで「適材適所でいこう」と結婚、同棲前の約束事だという。しかし生活基準は夏陽子が中心であるから、尻に敷かれているといっても過言ではない。彼女が「アレやって、コレやって」と言えば拒否はできないのである。もちろん、ご飯の良し悪しを言える立場ではない。うっかり苦手な食材があった日には、無言の食事になる。
「母さんにうっかり良し悪しを言おうものなら、最低でも三日間は口を聞いてくれないからなぁ」
新聞を読みながら、影澄が小さくぼやいた。どうやら前があるらしい。
「でも料理作ってくれるからね。優しいんだよ」
「そりゃあ作れないから仕方ないよね」
「うちの独裁者様は優しいから、今日も帰りに甘いもの買ってくるな」
実にいい笑顔で惚気られて、粋は苦笑した。