はたして彼女は間に合うのだった。
駆け出した脚は既に重い。しかし走るのを止めてしまっては約束の時間に間に合わない。それだけは頂けない。だが、約束自体はっきりさせてくれれば良かったのに、と愚痴ぐらいは言わせてほしい。切実だった。
あれは一週間ぐらい前だったか。
いつも連んでいる相方はただ一人。八月十五日藍海(なかあき あいみ)だ。彼女が戯れで会話したことの何割かは実現させるという実行力の権化。粋はただただ振り回される毎日を送っている。別に嫌ではない。嫌いでもない。飽きない毎日を送らせてもらっているが、とばっちりに合うことも少なくない。メリットデメリットで付き合いを考えるような粋ではないが、たまに考える。普通に暮らしたい、と。そんな粋に藍海は言ったのだ。「ただのお茶会をしましょう」
何を考えてそう言ったのか知らない。だが、日にちも何も彼女は言わなかった。粋も今回ばかりは口約束かと思ったぐらいだ。
しかし、あの実行力の権化だ。そんなわけがなかった。
あらゆるところにフラグを建てていた。それに気づいたときには全てがいま、である。だから、粋は張り巡らせた全てのフラグを掻き集め走っているのだ。
「普通に誘えっての!!!」
叫んだ粋を咎める声はなかった。あるのは奇異の目だけである。
作品名:はたして彼女は間に合うのだった。 作家名:楡原ぱんた