先生の言葉 全集
104.上下関係
……あのう。さっきから先輩、先輩と誰かを呼びかけていますけど、それってもしかして私のことですか?
その通りだって……。いや、あなた方と私は特にそんな間柄ではないですよね。まあ、同じ階層によくいるので、そういう意味ではよくお会いしますし、まあ、近しい間柄ではありますけど。
そんなつれないことを言わなくてもいいじゃないか、あなたはいろいろなことをよく知っているし、モンスターにも冒険者にもいろいろな相談をされている。一方で、私はせいぜい駆け出しの冒険者と良い勝負をするのが精一杯。その上、私たちは同じ不死族。私たちが先輩と仰ぐなら、やはりあなたしかないだろうですって?
まあ、おっしゃることはわかりますし、そんなふうに言われると気分が良くなってきてしまいますが、そもそも私には師匠という存在がおります。なので、弟子という立場なんですよ。あまり下の階層に行かないあなた方は私の師を存じてないかもしれませんが、道化師の格好をしたそれはそれはエグい能力をお持ちの方なんです。私もその方の下で修業をしている身なんですよ。だから、先輩後輩という間柄で誰かの面倒をみるなんて余裕はないんです。それに、あなたは先ほど駆け出しの冒険者といい勝負をするのが精一杯と自身を評していましたが、それは私も同じ立場です。いつも同じ場所にいて、お人よしで友好的な態度を取るので、冒険者からもモンスターからも相談事を持ちかけられたり、面倒事を背負い込まされたりすることはありますけど。
というわけで、呼ばれたら呼ばれたで気分はいいのですが、先輩と呼ぶのはやめてください。心におごりが生じて自分が自分でなくなってしまいそうです。そうですね、仲良くするなら、ゾンビさんやロッティングコープスさんあたりはどうでしょうか。彼らも不死族ですし、まひ攻撃という特殊技能も持ってますから、良い兄貴分になってくれるんじゃないかと思いますよ。
そう、そこ。そうやってなんだかんだいってアドバイスをちゃんとしてくれるから、あなたの下につきたいんだ? ゾンビやロッティングコープスは、しょせんこちらをコボルドの死体と侮って下に見てくるから尊敬なんかできない?
そうですか……。あなた方アンデッドコボルドさんも苦労しているんですね。まあ、ゾンビさんとロッティングコープスさんには、その件ちょっと注意はしておきますよ。
でも、すみませんが、先輩の件はお断りさせてくださいね。