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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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本当の優しさ(おしゃべりさんのひとり言 その14)

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その14 本当の優しさ



子猫が鳴いていた。
にゃあ、にゃぁ、にゃあぁ・・・
何に鳴いているのか、はたまた、声を上げているだけなのか。
私はその声を聞いて、切なくなった。
子猫は、道路わきの電信棒の横に、無造作に置かれた段ボールの中で鳴いていた。

雨合羽の少女が、傘をさす母親と手をつなぎ、その電信棒に近付いて来た。
子猫の鳴き声に気付くと、少女は足を止めた。
母親は見ぬふりをして通り過ぎようとしたが、少女はその手を放し、段ボールの箱を覗き込んだ。
子猫はさらに鳴き続けた。
少女は「この子どうしちゃったの?」と、母親に聞いた。
母親は、少女が子猫を触らないように、手をつなぎなおしてこう言った。
「捨てられちゃったのかしらね。お腹すいてるのかしら」
「ずぶ濡れになって、かわいそう」
そう言って、少女は涙を流した。

私はその光景を、側に停めた車の中で見ていた。
きっとその母親は我が子のことを、なんて優しい子だと、思ったに違いない。

その親子が立ち去って暫くすると、先ほどの少女と同じ年くらいの女の子がもう一人、傘をさしてやってきた。
その子も子猫の鳴き声に気付いて、立ち止まった。
段ボール箱を覗き込むと、慌ててポケットから、ハンカチを取り出した。
そして優しく、子猫を拭いてやると、ハンカチを段ボールにかけて、そのまま走り去って行った。

私はほんのわずかな時間だったが、子猫に「よかったね」と言ってやりたかった。
雨に濡れない車の中から、その捨て猫に不幸が訪れないことを祈った。

また暫くすると、さっきのハンカチの女の子が、その母親を連れて戻って来た。
母親はバスタオルを持っていた。
母親が段ボール箱のハンカチを回収すると、女の子は子猫を抱き上げた。
その子猫を母親が、バスタオルで念入りに拭いてやっていた。
そして、女の子が子猫を胸に抱いて、母親の傘に入って帰って行った。
この母親こそ我が子のことを、なんて優しい子だと、誇りに思っているだろう。

私は心を撃ち抜かれた。
優しさは、言葉じゃない。言ってるだけじゃダメ。涙を添えた程度じゃ何の意味もない。
行動が伴っていなければ、本当の優しさとは言えないんだと、最初の少女と比較して思った。
今でもその時の鳴いていた子猫を思い出すが、とても温かい気分になれる。


話は変わるが、猫じゃなく、地球が泣いている。
地球温暖化。世界的な環境問題だ。
悲鳴を上げているのか、ただ気温が高い時代のサイクルなのか。

昨今、一人の少女が有名になった。
環境活動家とされる16歳の少女は、約60カ国の首脳や閣僚を前に、「あなた方は、私の夢や私の子供時代を、空っぽな言葉で奪った」と激しい口調で語った。
「・・・私たち若者に頼って希望を求めにくる。よくもそんなことを」
とても辛辣な口調で、世界の重鎮たちに「恥を知りなさい」と言い放った。
この少女は地球温暖化対策に乗り出さない大人たちを、痛烈に非難して有名になった。

私は捨て猫を助けようとしなかった、あの時の自分を思い出した。
誰かが拾ってくれるだろうと考えて、心ある行動を取らなかった。
私も何もしない大人だった。恥を知った。

・・・・・・でもその環境活動家を名乗る16歳の少女には、涙を流した最初の少女と同じく、言葉だけで物足りないものを感じてしまう。


     おわり