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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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 2人の心強い仲間がいることで、かな〜り余裕だった。カイロでポッカポッカなのも、気分を良くしてくれる。
 クラウスは自分のカイロをルーファスに差し出した。
「僕のカイロをあげよう」
「えっ本当に、ありがとう助かるなぁ」
「冬になるとこのカイロは学院の購買で売り出されるんだ。購買で売られているのは3時間用と6時間用がある」
「全国発売すればいいのに」
「実はこのカイロ1セット売るごとに赤字なんだ。学院の生徒のために、割引して売ってるんだよ。だから商売となると難しい」
 クラウスはローゼンクロイツにもカイロを手渡した。
 ……あれ、2枚目?
「2人に渡したのは6時間用だから」
 と、何気にクラウスは言った。
 のぼせたルーファスの頭でも理解できた。
「持参したの?」
「大臣がどうしても持って行けとうるさいものだから仕方なく」
 国王の特権だ。
 カイロを受け取った手前、ズルイとは口が裂けてもいえない。
 出発地点の山の入り口は、平坦な道で雪も数センチしか積もっていなかったが、だんだんと雪に足が埋まり、傾斜が急になりはじめていた。
 このサバイバルの舞台はグラーシュ山脈。
 アステア王国の北に位置する極寒の山岳地帯。この山脈の周りは比較的温暖な気候なのだが、なぜかグラーシュ山脈一帯だけが異常に寒い。その気温は平均で零下20度以下で、最低気温は零下50度〜60度に達する。
 ガイアの北極と南極に匹敵する寒さだ。つまりバナナで釘が打てる世界。
 こんな氷の大地にも生物はちゃんと住んでいる。
 どこの自然界でも同じだが、生物はその場所に適用する能力を持っている。そのわかりやすい例が擬態と言って、生物は周りの風景に溶け込む模様や形をしている。雪原などでは白い毛並みの動物が多い。
 3人が歩く前方の崖をぴょんぴょん登る物体を発見。
 白く長い毛と先の分かれた枝のような角。グラーシュシロシカだ。
「カメラ持ってくればよかったなぁ」
 ルーファスが呟くとクラウスがカメラを取り出した。
「あるぞカメラ?」
「はぁ?」
 冗談で言ったつもりなのに、本当にカメラ持参なんて思ってなかった。
「大臣が記念に残るから、どうしてもって持たせてくれたんだ(グラーシュ山脈には固有種しかいないらしいからな)」
 そう、グラーシュ山脈は世界でも珍しい生物が多く生んでいる。周りの地域に比べ、この山脈一帯だけ寒い。そのためにまるで隔離された孤島のように、周りの地域と生物の進化が極端に異なっているのだ。
 だからってカメラ持参なんて、野外実習を舐めきっている。
 と、言いたいところだが、今回は湯めぐりの旅と騙されて連れてこられたので、ただの遠足気分でカメラ持参の生徒たちも多かった。
 ただし!!
 クラウスの場合はグラーシュ山脈に来ることを前提で、地獄のサバイバルがあることを知っていて、それでもカメラを持ってきたのだ。
 やっぱりクラウス魔導学院の野外実習を舐め腐っている。
 カメラを構えたクラウスがルーファスに指示を出す。
「ルーファスそこに立て、シロシカが後ろになるように……少し右だ、いや、左」
 クラウスに促されるままルーファスはカメラの前で位置を決める。
「はい、ポーズ!」
 カシャッとシャッターが切られた。遥かなる山脈とシロシカをバックに、記念に残る1枚が撮られた。
 クラウスはローゼンクロイツにもカメラを向けた。
「ローゼンクロイツも撮るか?」
「……ヤダ(ふにふに)」
 ローゼンクロイツは片手を前に突き出し、ストップの意思表示をした。
「写真に撮られると魂が抜かれるんだよ(ふあふあ)」
 仕方なくクラウスはカメラを下げた。
「そんな迷信を信じているのか?」
「……信じてない(ふにふに)」
「(信じてないのか……)だったら1枚くらいいいだろ?」
「……ヤダ(ふにふに)。写真に撮られると魂が抜かれるんだよ(ふあふあ)」
「信じてないのだろ?」
「……ヤダ(ふにふに)。写真に撮られると魂が抜かれるんだよ(ふあふあ)」
 無駄な押し問答が続く気配がしたので、クラウスはため息をついてカメラをしまった。
 3人は山頂に向かって歩き出した。
 時おりマップを確認しながら慎重に前へ進む。コース取りを間違えれば大幅な時間ロスになるし、最悪遭難。
 ぶっちゃけ、こんな雪山でマップだけ持っていても意味がない。目印も特にないので、焚き火の道具にしかならない。
 だが、事前情報を得ていたクラウスはコンパスを持参していた。
「もうすぐ他のクラスと鉢合わせするかもしれないな」
 コンパスでマップを確認するクラウスの横で、ローゼンクロイツがボソッと。
「コンパス持参なんて……ズルイね(ふにふに)」
「事前情報を得ていたのだから、それを最大限活用するべきだろ?」
 クラウスは温泉ワクワク遠足ではなく、雪山サバイバルだと知っていた。
 それでもローゼンクロイツは突っかかる。
「でもねクラウス、こういう訓練はみんな同じ条件じゃないとつまらないと思うよ(ふにふに)」
「君だって冬物のコート着ているじゃないか? そんなにいうんだったら脱げよ」
「……ヤダ(ふーっ)」
 やっぱり寒いのはイヤなのだ。
 クラウスは少し考え込み、手に握っていたコンパスを雪の中に投げた。
「これで文句ないだろ?」
 コンパスはもうどこにあるのかわからない。
 ルーファスは未練を口にする。
「あーあ、別に捨てることなかったのに……」
 が、コンパスを捨てた方向から何者かの声が聞こえる。
「このコンパスはオレたち兄弟がもらったぜ!」
「悪く思うなよ!」
 雪の中から突如飛び出した人影!
 赤と青の魔導衣を来た二人組み――オル&ロス兄弟参上!