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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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「す、すごいよローザ姉さん」
 ルーファスは姉の才能に感嘆した。
 そして、姉弟の中でなんの才能もない自分を思ってネガティブになった。
「姉さんたちはあんなにすごいのに、僕なんか僕なんか……生まれてきてごめんさい」
 ルーファスの両手をハナコの温かい手がぎゅっとつかんだ。
「凡人であるほうがよっぽど珍しいと思いますから、ルーファスさんも誇りを持って生きてください」
 ぜんぜん励まされてないし、ルーファスは凡人というよりへっぽこだ。ハプニング吸引体質で、平凡とはほど遠い。
 今だって変な押し掛け女房に憑かれてるし!!
 ローザが歌い終わると、感動のあまり会場は静まり返った。
 ハッと我に返った審査員が100点満点の鐘を鳴らした。本戦出場が決定した。
 次に参加者もルーファスの知り合いだった。
「あ、パラケルスス先生」
「お知り合いの方ですか?」
 ハナコが尋ねた。
「うん、私が通っている魔導学院の先生なんだ」
「まあルーファスさん、魔導学院の生徒さんなのですか?」
「いちようクラウス魔導学院に通ってるんだけど」
「あ、綺麗なちょうちょが飛んでますよ!」
 スルーされた。
 この都市には多くのクラウス魔導学院の生徒が住んでるとはいえ、名門である学院名前を出せばそれなりにみんな食い付いてくる話題なのに……。さらに『まさかルーファスが!?』みたいな感じで、みんなけっこう驚いてくれる話題なのに……。
「僕の話ってそんなにつまらないかな……」
 すっかり落ち込んでしまった。
 そんなルーファスをほっといて、予選は進んでいく。
 パラケルススが渋い歌声で歌い出した。
 歌詞の内容はおおよそ、酒に肴に義理人情、男女の色恋沙汰の舞台は港町。
 こぶしを回す上級スキルを駆使して歌われているのは演歌だ!
 演歌と言えば魂の歌。
 また老人たちが拝みだした。
 歌が単純に上手い下手という要素のほかに、魔力を持っている者はそれが歌に反映されることがある。今ある魔導の原型は詩による言霊であり、歌と魔導は古くから密接な関係にあるのだ。
 会場から声があがる。
「おやじとおふくろを温泉に連れて行ってやろう」
「そういえば、このごろ両親にありがとうって言ってないな」
「昔別れた妻とやり直そう」
「やっぱりわたし、あのひとを追って旅に出るわ!」
 なんかいっぱい釣れた。
 そんな感じでパラケルススも予選を突破したのだった。
 予選は進んでいき、そろそろルーファスの出番も近付いてきた。
 ハナコが笑顔でルーファスにある物を手渡す。
「ルーファスさん、急いで衣装を用意しましたから来てください」
「え?(いつの間に)」
「きっと似合うと思います」
「あ、ありがとう……」
 衣装を着て歌うなんて本格的だ。下手な歌を披露すると、赤っ恥をかいてしまう。
 でもせっかく用意してもらったものを断れないルーファス。
 出番も近いので急いで着替えることにした。
 舞台裏の影で人に見つからないうちに着替えようとしていると、たまたま誰かが通りかかってきた。
「ルーたんこんなところ会うなんて偶然ですねぇ〜」
 現れたのはマリアだった。
「あれマリアさんこんなところで?」
「一稼ぎも終わったからのど自慢を観に来たんですぅ」
「そうなんだ」
「もしかしてルーたんも出場するんですかぁ?」
「まあ成り行きで……緊張してお腹は痛くなるしのどはカラカラだし」
「歌う前にのどがカラカラなんていけませんですぅ。これでも飲んでください、特別定価50ラウルですよぉ♪」
 あからさまにルーファスはイヤそうな顔をした。
 ぼられるという感覚はなく、ただただあの不味さが蘇ってきたのだ。
「前に買ったドリンク……言いづらいんですけど、ちょっと私の口には合わなくて」
「ごめんなさぁい、口に合わないドリンクなんか勧めてしまって、ぐすん」
 まん丸な瞳で涙ぐむマリア。
 慌てるルーファス。
「ごめんなさい、きっと僕の口に合わなかっただけで、本当は美味しかったんです」
「そんなフォローしてくれなくてもいいですぅ、ぐすん。不味かったからもう二度とマリアからドリンク買ってくれないんですね、ぐすんぐすん」
「買います買います!」
「600ラウルですぅ、ぐすん」
「……え?」
 微妙な値上がり。
 ルーファスが若干渋ったのを見てマリアはさらに泣きはじめた。
「ルーたんひどいですぅ、買ってくれるって言ったのに言ったのにぃ〜」
「買います買います買わせていただきます!」
「700ラウルですぅ」
「……買います。700ラウルでいいんだよね(また値上がりした)」
 ルーファスはサイフから700ラウルを出して渡した。
 今まで泣いていたのがウソのように、というかウソだけど、ニッコリ笑顔のマリアちゃん。
「毎度アリですぅ♪(ちょろいわルーファス)」
 やっぱり心の声がダークだ。
 さっそく買ったドリンクをグビグビっと飲んでみた。
 鼻を抜けるフルーティーな香。甘さもほどよく、さわやかなくらいの酸味もほどよい。
 ルーファスは一気に飲み干した。
 ちょうどそこへのど自慢のスタッフがやって来た。
「ルーファス・アルハザードさ〜ん! もう出番なので急いでくださ〜い!」
「はいはい、ずぐっ……に(あれっ、のどの調子が……)」
 なんだかのどのつまりを感じながらも、今はとりあえす急いで着替えて舞台に向かうことにした。
 ついにルーファスの出番がやって来た。
 舞台袖から出てきたルーファスを見て観客たちは……失笑。
 腕にそうめんの滝みたいなのがついた純白の衣装。パンタロンの丈があっておらず、『殿中でござる!』みたいな場面に出てきそうな、裾を廊下にズルズル引きずる着物状態だ。
 この姿を舞台裏からこっそり見ていたビビも幻滅せずにはいられなかった。
「ルーちゃん……ダサい」
 じつはビビものど自慢と聞いてコッソリ予選に参加しようとしていたのだ。
「(早食いではダメだったけど、歌ではイイとこ見せるんだから!)」
 意気込んでいるビビちゃんであった。
 舞台上ではルーファスが緊張と恥ずかしさで泡を吐く寸前だった。
「(早く終わって……このままだと僕の人生が終わる)」
 なかなか流れないイントロ。
 変な衣装で壇上に立たされ、羞恥&放置プレイだ。
 しかも、客席にはローザとディーナの姿が……。
 そしてようやくイントロが流れはじめた。
 ルーファスは眼を剥いた。
「(この曲って……)」
 考えているうちにイントロが終わってしまう!
「(こうなったらめいいっぱい歌ってやる!)」
 大きく息を吸いこんだルーファスは、歌い出しと共に大声を響かせた。
「おーれはジャイア〜ント、鬼軍曹♪」
 ホゲ〜!
 ルーファスの声とは似ても似つかない地の底に棲む悪魔の呻き声。
 この世の終わりを知らせる悲鳴。
 次々と倒れる観客たち。
 揺れる地面、砕ける壁、天を漂う雲が割れた。
 そして轟く雷鳴。
 ルーファスの歌声、天変地異のごとし!
 もともとルーファスはこんなに歌が下手なわけではない。マリアからもらったドリンクのせいだ。
 救護隊によって運ばれていく人々。