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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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「拒否といわれても、こちらとしてはドラグナーとしての立場もありますゆえ、そう易々とエントドラゴンに会わせるわけにもいきません」
「それは困る(ふにゃ〜)。鱗を一枚もらえないと困る(ふにゃ〜)」
「どうしてマスタードラゴンの鱗が必要なのですか?」
「出席日数が足らなくて進級できないらしい(ふ〜っ)。知り合いのへっぽこクンは5年生に上がれたのに、ボクは4年生のまま……ちょっと自分に苦笑(ふ〜っ)」
「それでマスタードラゴンの鱗がどんな関係が?(世俗に囚われない物腰をしている青年なのに、なんとも世俗的な話なのだろうか)」
「教師たちはボクにもう一度4年生をやれと言ったけど、それは嫌(ふ〜っ)。だから進級するためにマスタードラゴンの鱗で手を打ってもらうことにしたんだ(ふにふに)」
 ――事は1週間ほど前に遡る。
 新年度がはじまっても学院に顔を出さないローゼンクロイツに、至急学院に来いとの連絡があった。
 学院に呼び出されたローゼンクロイツは、そこで進級できていないことを告げられたのだ。ちなみに、そんなことを告げられてもローゼンクロイツは、いつもどおり無表情だったことは言うまでもない。
 裏の手口を知っているローゼンクロイツは、進級できないと告げられても焦ることもなく、さっそくその足で魔導学院の教師カーシャのもとへ向かった。
 学院内でもカーシャの地位は、決して生徒から慕われるものではないが、通常ではどうにもならないようなトラブルを解決してくれることから、生徒たちにとってはなくてはならない教師なのだ。もちろん、トラブル解決には、それなりの代償を支払わなければならい。
 ――今回は特別出血大サービスで、マスタードラゴンの鱗で勘弁してやろう。
 これがカーシャの提示した代償だった。
 そして、ローゼンクロイツはマスタードラゴンの鱗を取ってくることを承諾したのだった。
 ローゼンクロイツがマスタードラゴンの鱗を欲している理由を聞いたシモンは、一息ついて時間を空けたあと、笑みを湛えながら口を開いた。
「いいでしょう、エントドラゴンに会わせましょう。ただしエントドラゴンは人間がとても嫌いです」
「知ってるよ(ふあふあ)。木の精霊エントの力を宿すエントドラゴンは、自然を蝕む人間が大っ嫌いなのは有名な話だね(ふにふに)」
「せめてガイアではなく、エントに来ていただければよかったのですがね」
 今日は世界的に休日のガイアという曜日に当たる。エントは精霊の名であると共に、1週間の第5日目を守護し、その日の名称にもなっている。
 今までずっとローゼンクロイツとシモンの会話を見守っていた魔法生物が、あわてた感じで口をパクパクさせながら二人の間に割り込んできた。
「ダメだテポ、人間をエントドラゴン様に会わせちゃダメだテポ」
「うるさいよ、ガマ口(ふっ)」
 ローゼンクロイツの精神攻撃がまた決まった!
 こうしてまたカスタネットオバケは地面沈んで再起不能にされたのだった。

 コンコンというノックが聞こえ、カーシャはそのノックをした人物が誰かすぐにわかった。
「クリスちゃんだな、鍵は開いている、入って来い」
 ガチャっとドアノブが音を立て、いつもと変わらぬ空色ドレスのローゼンクロイツがカーシャの研究室に入ってきた。
「獲って来たよ(ふあふあ)」
 その手には、ローゼンクロイツの顔よりも大きな木の葉が持たれていた。
「なんだ、その枯葉は?(焼き芋のシーズンはまだ先だぞ)」
「魔女が取って来いってボクに言ったの、忘れたのかい?(ふにふに)」
「枯葉を取って来いなど、妾は言った覚えなどないが?」
「よく見ればわかるよ(ふあふあ)」
 ローゼンクロイツに木の葉を渡せれ、カーシャは眉をひそめたが、すぐにその表情は驚愕へと変わった。
「ま、まさかエントドラゴンの鱗か!?」
「そうだよ(ふあふあ)。だって魔女がボクにマスタードラゴンの鱗を取って来いって言ったんじゃないか?(ふにふに)」
「戯け者かお前は……(たしかにマスタードラゴンの鱗を取って来いとは言ったが、まさかマスター・オブ・ザ・マスタードラゴンの鱗を取ってくるとはな…… ふふ)」
 エントドラゴンの姿はまるで木の葉の山のようであると伝えられている。木の精霊エントの力を身体に宿したエントドラゴンは、その身体の一部を植物と化し、鱗は全て木の葉でできているのだ。
 マスタードラゴンの鱗を約束どおりカーシャに渡したローゼンクロイツの姿は、すでにドアの近くにあり、カーシャに背を向けていた。
「じゃ、進級の件よろしく(ふあふあ)」
「進級ではなく、飛び級をさせてやってもいいが?(エントドラゴンの鱗ならば、進級以上の価値はある)」
「5年生でいいよ(ふあふあ)。5年生にはボクのライバルがいるからね(ふにふに)」
 無表情な顔についた口が一瞬だけ歪み、すぐに無表情に戻る。そして、もう一度笑った。その笑みはいつものあざ笑いではなく、青空に浮かぶ太陽のような微笑みだった。しかし、その表情は背中越しだったためにカーシャは見ることはできなかった。もし、その表情を見ていたら、今夜のカーシャは眠れぬ夜を過ごしたに違いない。
「ところでクリスちゃん、どうやってこの鱗を手に入れたのだ?」
「……企業秘密(ふっ)」
「……なっ?(企業秘密だと!?)」
「じゃ(ふあふあ)」
 ローゼンクロイツは部屋を出て行き、残されたカーシャはローゼンクロイツがどうやってエントドラゴンの鱗を手に入れたのか、結局、眠れぬ夜を過ごすことになるのだった。

 おしまい