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敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊

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覗き窓



「あなたは当然、ガミラスがどこにあるかを知っている。なのに我々地球人に話すことはできないと言う」と、真田はサーシャに言った。「それはつまりガミラスもまたマゼランにあるということですか」

「ですから、答えられません」サーシャは言った。「ですが、そう応えることが、答になってしまうかもしれませんね」

「それじゃあ……」

と言った。しかし〈彼女〉は首を振って、

「とにかく、肯定も否定もできない。そう言うしかないのです。すみませんがこの話はこれ限りとしてください」

「わかりました」

と真田は言った。やはりガミラスはマゼランにあると言うのも同然だ。それもおそらく〈エウスカレリア〉のある恒星系からいくらも離れていないところに――波動エンジンの〈コア〉は渡すがコスモクリーナーは渡さない、欲しくば取りにやって来い、などという話の裏もそこにある――そんな確信を抱きながら。

〈ノアの方舟〉。猿が飼われる人工の森の前だった。観察用の覗き窓から見れば木の上で猿達が互いに毛づくろいなどしている。真田はそれを眺めつつ、〈彼女〉の顔を横眼に窺っていた。

イスカンダル――いや、エウスカレリアの〈女〉、サーシャ。その姿は一見する限りでは、地球人と変わらない。どの人種に似ているか、となるとなんとも言いがたいが……。

しかし〈人間〉であるのなら、やはり猿のような生物から進化したのであるはずだ。どうして遠く離れた星で、同じことが起こるのか。

そして、〈彼女〉が人間ならば、ひょっとすると〈彼ら〉もまた……。

真田は言った。「この猿達に棒を持たすと、それで殺し合いを始める。棒の先に石をつけて棍棒にし、それを研いで石斧にする。そうしていつか宇宙船……」

「地球の古い映画の話?」

「そうです。我々地球人がロケットを造ったのは、別に宇宙に行くためじゃない。核ミサイルを敵めがけて飛ばす技術を求めたからです。石斧から鉄の斧。ウランとプルトニウムの斧」

「あなたこそ波動砲を造り出そうとしていたのでしょう」

「ええもちろん。けれどもそれは、スペースコロニーが地球に落ちてくる前に破壊するための道具としてです。こんなものは強力過ぎて兵器としては使えない。一体何を撃つというのか……わたしはそう思っていました」

「ガミラスが来るまでは」

「そうです」と言った。「木を斬るのに鉄の斧は要るでしょう。しかしウランとプルトニウムの斧を欲しがるのは愚か者です。持ったところで始末に困るだけだと気づかなければいけない。なのに、求める人間は決して少なくないでしょう。『鉄の斧かウランの斧か』と聞かれたら……」

「そう。どちらを採るべきか、答は決まっているはずです。誤った返事をするのは猿以下の脳の持ち主と言うべきです」

「それは……しかし、まさかまさか……」

「真田さん。とにかくわたしはこれ以上、あなたに何も言えません。今、あなたは恐ろしいことを考えているのでしょう。わたしがあなたにそれをさせる気でいるのじゃないかと……しかし、それに対しても、肯定も否定もできないのです。あなたが〈ヤマト〉でマゼランに行き着いたなら、そのようなことになるかもしれない。ええ、もちろんその通りです」

「そんな」

と言った。『何も言えない』と言いながら、ほとんどすべて言ってしまっているのも同じではないか。そう思った。思ったが、

「ですが……」

と〈彼女〉は言った。眼は木の上の猿達を見ていた。親猿が子猿を連れて餌の取り方でも教えているらしい。そのようすを見やりながら、

「それが本意なら、こんなまわりくどいことはしません。真田さん、わたしは地球人類の中に、あなたのような方がいるか確かめに来たのです。〈ヤマト〉に乗るのは、復讐や、個人的な野望のために宇宙に出る者になるかもしれない。ならばその恐ろしいことを実行するかもしれない。マゼランという人物がそうであったように……それが国を救うため、レコンキスタのためだという言い訳をして……」

マゼラン。そしてレコンキスタ。もちろん真田は、そのとき〈彼女〉がどんな意味でこのふたつの言葉を口にしたのか知っていた。いや、知っているつもりだった。少なくとも、表面的な意味はわかる。けれどもそれを今ここで真田に言う深い意味があるとしてもわからない。

だが、『レコンキスタのためだ』というなら――。

「とにかく、言えるのはここまでです。わたしは地球人類を試しに来ました。来ましたが、実はそうではありません。わたしにあなたがたの運命を決める資格などありません。この動物を殺す権利も――わたしはあくまでも、この試練を乗り越える手助けをしに来たのです。だから〈ヤマト〉には、一隻だけで旅に出てもらわなければいけない……」

と言った。覗き窓の向こうでは、猿が鳴き声を上げながら木から木へと飛び移っていた。

「それしかないのです。だから本当に試されるのは〈ヤマト〉に乗る人間です。皆を率いて未知の宇宙に旅立つ者、それがどんな人物になるか……」