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敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊

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マラッカ海峡



「宇宙は大きいのだ! そして果てしないのだ!」

佐渡先生が酒を手酌に飲みつつ言った。テレビ電話の画面の中ではトラ猫が知らん顔でいて、アクビをしたり後足で耳の後ろを掻いたりしている。

「酒なんて無いのだ。土星へ行っても冥王星に行ってもお前に買ってやるお土産は売ってないんだ。ミーくん、さよなら……」

交信終了となる。〈ヤマト〉の全乗組員に、今、地球で帰りを待つ家族や親しい人間(動物含む)との三分間の交信が許されていた。並行して甲板及び左右両舷の展望室でギョウザパーティが始まり、航空隊員や砲雷科員が接待役となっている。

「なんでギョウザなんだ?」

「それはまあ、いろいろ理由があるんだそうだが」

焼きたての羽根つきギョウザがふるまわれる。そして、酒だ。宇宙に酒は無いけれど、〈ヤマト〉艦内に百パーセントのエタノールは常備されてる。これにかき氷シロップのようなカクテルの素を混ぜて炭酸水で割れば、地球の軍の基地内で〈酒〉と呼ばれて飲まれるのと同じものが出来上がる。ジントニックにカシスソーダ、クバ・リブレ、モスコー・ミュール、シンガポール・スリング――。

冥王星の戦いに勝って〈ヤマト〉は〈天の赤道〉を越えた。越えたが、その後二日ほど、ガミラスの追撃を躱してカイパーベルトを逃げ回らねばならなかった。

ひとつには船の修理とケガ人の手当のためだ。それ無しにマゼランへの本格的な旅を始めることはできない。

太陽系にいたとき〈ヤマト〉は一度に最大でも十億キロほどのワープしかしていなかった。太陽と地球の間が一億五千万キロだからその七倍でもあるのだが、これは光が一時間に進む程度の距離である。〈ヤマト〉は一度に一光時間のワープしかしていなかったわけだ。

マゼランは〈天の南極〉にあって遥かに十四万八千光年。〈ヤマト〉は〈天の赤道〉を越えたと言えるか言えぬかといって、実は全然言えないじゃん、という状態にまだあった。東南アジアはマレー半島の南端に浮かぶシンガポール。これが北緯一度だから、今の〈ヤマト〉はその沖の〈マラッカ海峡〉にいるようなものだ。

シンガポールの南にはインドネシアのスマトラ、ボルネオ、ジャワといった島々がある。地球の海ならそこを抜けてやっと本当に赤道を越えたということになる。

カイパーベルトは〈宇宙のマラッカ海峡〉であり〈インドネシア〉――〈ヤマト〉は宇宙のそんなところにいると言えた。十億キロから百億キロ、千億、一兆と一回ごとの距離を伸ばし、一光年、十光年とさらに伸ばして、最終的に、一度にワープする距離を一千光年までにする。後はこれを一日二回、296回やることで、ロスがなければ半年で地球とマゼランを往復できることになるのだ。

冥王星の戦いから三日目の今日、〈ヤマト〉はこれまでの二十四倍、一光日のワープを果たした。まずはこれで本当に、天の赤道を越えたと言える。旅はまだまだまだまだ、まだまだまだまだ先は長いが、それでも――。

「まずはお祝いだ」

左舷展望室のパーティ会場で沖田が言った。声は全艦に放送されて、古代のいる甲板の特設テントにも響き渡る。

「我々は遂に未知の領域への第一歩を踏み出した。これも皆の働きのおかげだ。ありがとう。行く手にさらなる困難が待ち構えているかもしれぬが、我らが力を合わせれば必ず乗り越えられると信じる。今日は楽しんでくれ」

簡単にそれだけ言って挨拶を終えた。クルー達はその間、胸に手を当てる敬礼をして沖田の声を聞いていた。

冥王星の敵に〈ヤマト〉が勝てたのは、なんと言っても沖田の力だ――誰もが心にそう感じているのだろう。〈ヤマト〉が敵を討ったことで、地球で起きた内戦は止み、人が〈ヤマト〉を信じ始めた。それも沖田の力なのだと皆が強く感じているのだ。

そして、沖田の言うように、自分達の力だと――沖田を信じてついて行けば、地球で待つ人々を救える。オレ達が力を合わせればできるのだと頷き合って、カクテルのグラスを交わし、大皿のギョウザに箸を伸ばす。

そうして言った。「で、なんでギョウザなんだ?」