アーレーー!(おしゃべりさんのひとり言 その9)
その9 アーレーー!
私には40年来、気になっていることがあった。
解決するにも、あまりにどうでもいいことで、放置して来た。
それが先日、すんなり解決したのだ。
子供のころ、アメリカの人気漫画アニメの『ポパイ』を見ていた。
今の若い人は知らないだろうか?
ポパイには恋人がいる。オリーブがそうだ。
しかし、その仲に割って入るライバルのブルートは、筋骨隆々で彼女を奪いにやって来る。
小柄なポパイは、大きなブルートに翻弄され、ズタボロにやられるが、終盤にはホウレン草を食べて、パワーを回復。
相手をやっつけて、めでたしめでたし、というのがお決まりのパターンだった。
嫌いなホウレン草を食べさせられた子供が多いのは、このせいだ。
このストーリーのどこが気になるかというと、オリーブがブルートにさらわれる時に、必ず口にする叫び声、
「アーレーー!」
これが気になっていた。
原語(英語)ではどうなのか知らないが、「あれこれそれ」の「あれ」ではなさそうだし、どう考えても日本語表現とは思えない。
音階で言うと、上のドの音を二分音符と全音符の連続で、(ドードーー)という感じで叫ぶ。
この「アーレーー」って、一体どういう意味だ?語源は何だ?
実際他の漫画でも、よくこのセリフを目にしていた。
崖から落ちるシーンで、「アーレーー!」
悪者にさらわれるシーンで「アーレーー!」
恋人がぶたれるシーンで「アーレーー!」
必ず女が発する声で、定番のセリフのようだったが、今は全くお目にかかれなくなった。
普通叫び声って、「ワー」とか「キャー」だと思うのだが、そのセリフも実際には白々しい。
漫画に出てきても、現実にそういうのは口を衝いてすぐには出てこない。
絶叫って「ギャッ」とか濁音交じりの一瞬の音に、余韻を添えるように引き伸ばされた形になると思う。
この「アーレーー!」がずっと気になっていたのに、先日、一瞬で解決した。
歌舞伎を見に行った時、女方が奈落に落ちるシーンで、なんと、「あ~れ~~!」と艶やかに言ったのだ。
「これか!」
江戸時代は、絶叫シーンのセリフとして、「アーレーー!」が使われていたようだ。
なぜ、「アーレーー!」なのかは分からないが、よくよく考えれば、今、「アーレーー!」が使われなくなったように、言葉にならないセリフは、「キャー」でさえ、100年も経てば、意味不明な音に聞こえるのかもしれない。
作品名:アーレーー!(おしゃべりさんのひとり言 その9) 作家名:亨利(ヘンリー)