フリーソウルズ2
Scene.54
裕司起床
目覚まし時計が鳴る。
うつ伏せになったまま目覚まし時計に手を伸ばす裕司。
裕司の手がサイドボードに積みあがっている漫画本の山にぶつかる。
漫画本がドサッと崩れる。
裕司の後頭部にそばがら枕が乗っかっている。
頭から枕を取り払い目覚まし時計のベルを止める裕司。
辺りを見廻す裕司。
勉強机、クローゼット、壁面にジョジョのポスター。
スプリングの音がするベッド。
水色のタオルケット。
リアルに自分の部屋であることを確認する裕司。
姉・麻衣子の声を聞く裕司。
麻衣子 「裕司、起きたの?」
目覚まし時計の液晶文字が7時52分を表示している。
裕司の心の声「着替えて学校に行かないと・・・。いや待て。きょうは何曜日だ?」
身体を揺り起こす裕司。
腹部に固いものを感じる裕司。
眠い目をこじ開け固いものを見る裕司。
一農陸上部同期入部の集合写真の入った写真立て。
ガラス面がうっすら湿っている。
写真立ての中、前列端で肩を組んで笑う裕司と恭一。
裕司 「キョーイチ・・・」
ベッドの縁に座って暫し写真の中の恭一を見つめ涙ぐむ裕司。
この数か月の出来事を思いだす裕司。
キョーイチ。
ジロー。
ユアト。
ゼーレ。
頭が混乱する裕司。
サイドボードの上にB5サイズのチラシと紙片を見つける裕司。
”灌北大学灌樹祭”
”メインステージ ガールズロックバンド 姫君”
”ゲスト ユアト(ユーチューバー)/ 超科学研究会”
チラシとともに置かれた紙片はイベントの入場券である。
ユアトとの別れ際の言葉を思いだす裕司。
”目が覚めて元気だったら、覗いてみて。そのころには犬の容体がわかると思う”
ジャージのポケットに貯金箱の小銭と入場券を押しこむ裕司。
部屋を出る裕司。
麻衣子 「裕司、朝ご飯どうする?」
姉の声を聞き流し団地の階段を駆けおりる裕司。
恭一の実家
シャッターがおりている一軒家。
シャッターの細い和紙が貼ってある。
”忌中につきお休みします”
悔しい思いと淋しい気持ちで胸を押さえる裕司。
戸建の壁伝いに裏手に回る裕司。
勝手口のガラス戸をノックする裕司。
恭一の母親が応対に出てくる。
恭一母は泣きはらしたような目で憔悴している。
、
恭一母 「(裕司の顔を見て弱々しく)裕司くん、どうぞ」
家に入るのをためらう裕司。
恭一母 「もう骨になっちゃったけど、拝んで行って」
入口の履物をかたす恭一母。
親友に最後の別れをするために仏前に膝まづく裕司。
遺影の恭一は生前の姿そのままに明るく笑っている。
裕司 「こんないい奴が先に逝ってしまうなんて間違ってる(涙ながらに呟く)」
恭一母 「ありがとう、裕司くん。その言葉と同じこと、さっき来てくれた女の子もおっしゃってました」
裕司 「えっ? 女子?」
恭一母 「そうなの。恭一にあんなきれいな女友達がいたなんて。あたしの知らないことばっかり」
裕司 「だ、誰ですか、その女友達?」
恭一母 「金井真凛さんっておっしゃってたかしら」
裕司 「金井真凛、聞いたことがあるような・・・」
恭一母 「恭一が息を引きとるときに傍にいてくださったみたいで・・・。あの子、ひとりで淋しく死んだんじゃないって聞いて、少しホッとしました」
裕司 「もしかして・・・」
恭一母 「裕司くんご存じかしら。姫君・・・」
裕司 「ひめ・・・」
膝に置いた両の拳を握りしめる裕司。