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妖精戯談

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ゴブリン祭3



 さて、エルフトの二人とゴブリンたちが戯れる中、ロージーは寺院の礼拝堂を眺めていた。ロージーは異種との雑ざりの血筋ということもあり、人目を常にはばかる。無用な禍を避けるためだ。外套に身を包み、深く頭巾を被っていた。
 祭壇には、今朝方届いた海の幸が捧げられ、その壁には大きな魚の彫り物が飾られていた。堂の彼処に、海や漁に関わる聖別された物が並んでいた。
 そんな堂を何気に眺めていたロージーに、僧が一人話しかけてきた。温和な初老の僧だ。
「珍しいですかな?」
 ロージーは隣に話しかけてきた僧に、ちらりと視線をやった。
「わたしはラーナの寺院で育ちましたから、他の信仰には興味深いですね」
「そうですか。太陽の信仰ラーナはここフェアリアル、強いてはアルフェリア王国群で広く信じられる信仰ですからね。その点、我ら海と慈愛の女神の信仰は、西の海岸沿いからの土着の信仰ですので、フェアリアルでもこの村だけでしょう」
「何故、内陸にあるこの村で、海の神の信仰が?」
 ロージーは些細な疑問を口にしてみた。
「海というよりも、慈悲と慈愛の精神が受け入れられたようです。ですので、ここでは民草にその精神を強く教えております。このような時代です。誰もが落ち着く拠り所を欲しているのでしょう。民は常に安寧(あんねい)を欲します」
 ロージーは一度視線を外し、会話の接ぎ穂を探した。
「一つ伺いたいのですが?」
 僧はロージーの問いに、どうぞと笑みを零した。
「キールというここの信仰の僧がわたしの連れにいるのですが、彼は何故放浪の身を?」
「キールのお連れの方でしたか」と、僧は目を丸くした。「あれは元々は盗人でした」
「ええ、知っています。その盗人が、どうして信仰の道へ?」
「本人から聞いておりませんか?」
 僧に訊かれ、ロージーは肩を窄めた。
「キールは一人のやはり放浪の僧に出会い、そして改心したのです」
「あれで?」と、ロージーは呆れた目を頭巾の奥から覗かせた。僧は相好を崩した。
「ええ、あれでもです。僧のくせに、女好きと思われていらっしゃるのでしょうが」
「女好きでただのスケベですね」
 半ば呆れて言うと、僧はもう一度笑った。
「ですが、キールの慈愛の女神への信仰は本物ですよ。いえ、助けられた旅の僧への恩と言えばよいでしょうかね。盗賊としてへまをやらかしたキールは、追っ手に追われていました。無事追っ手を撒いたものの深手を負い、とある山中で死にかけていました。そこへ、旅の僧がキールの元に現れたのです。僧は盗賊と知りつつもキールを手当てしました。そのお陰で、キールは命を救われたそうです。それ以来、キールはその僧に弟子入りし、信仰の道を歩みだしました。慈悲と慈愛の精神を一人でも多く分け与えるようにと、旅の僧になったそうです」
 ロージーは小さな溜め息を漏らした。
「あれで慈悲と慈愛が伝わるのかしら?だけど、信仰に携わる方々は物好きよね。盗賊を助けた所で、改心なんて無縁なのに。悪い奴は所詮は悪。それが人の世が求める人の定め。さて、わたしはそろそろ行きます」
 ロージーは会釈して立ち去ると、そのロージーの背に僧は語りかけた。
「そうかもしれません。ですが、キールのような例外があるのも事実ですよ。必ずしも、人は悪の心に染まって、悪行を働くわけではないということでしょう」
 ロージーは立ち止まり、僧に振り向いた。
「ええ。わたしもそう信じています。何故なら、人が人を許せぬこんな時代の中、わたし自身が禍という身の上から、慈悲の心に救われた一人ですから」
「そうでしたか。心ある人に出会ったのですね。大切になさい」
「もうそれも適いません。彼らはわたしのために死んだのですから。無慈悲な世の中で、慈悲と慈愛がただの幻想でないことをわたしも願っています」
 ロージーはしばし僧を見つめ、寺院を後にした。
 寺院の外へ出ると、ロージーは大きく肩を落とした。エルフトの二人の姿が見当たらない。
「毎度毎度、どうしてあの二人は、こう言い付けが守れないのかしら?ここで大人しく待っててって言ったのに」
 ロージーは寺院から向こうに見える街道を見た。祭りがいよいよ始まるらしいことが分かった。
「今日はゴブリン祭よね。あの二人のことだから、お祭りに混ざる気なんだろうけど。確か、陽の昇りに合わせて、東から西へと街道を練り歩くのよね」
 ロージーは街道へと目を向けた。
「仕方ない。探しに行くしかないわね」
 ロージーは村を通る街道に向けて歩みだした。
 大きな街道を見渡しながら二人を探すロージーだが、フォルテモたちはどうにも見つからなかった。人がごった返している上、子供が随分と溢れてもいた。この中から見つけ出すこと自体、そもそも骨が折れそうな話だ。
「おかしいわね。絶対にお祭りに参加してると思ったんだけど。あの子達の思考も行動も、何の脈絡も突拍子もないから、理解に苦しむわ。エルフトってみんなああなのかしら?」
 ロージーはエルフトの二人を探す途中、キールの姿を捉えた。大きな身体の男とその連れであろう男共三人、それから若い女に連れられていくのが見えた。それで大体の察しはつき、ロージーは大きく息を吐き出した。
「あのエロ坊主。あの子達でも手が掛かるっていうのに、あなたまで面倒を起こしてどうするのよ。だからキールと一緒は嫌なのよ」
 ロージーは渋々と、連れられて行ったキールを追いかけていった。
 キールは人気の無い所まで連れられると、そこで膝を付かされた。目の前には柄の悪そうな偉丈夫、その周りに子分と思われる男共が三人。そして偉丈夫の後ろで、身なりの良い村の娘が腕を組んでキールを見下ろしていた。
「偉い偉い僧のキール様?もう一度お聞きしますわ。あなたが女神の偉い僧だというお話。どこまでが本当なのかしら?」
「い、いや、まあ、ちょっとは見え張って話を盛ったけどよ。女神の僧なのは本当だって」
 可愛らしいエイミーちゃんがこんな連中とお付き合いがあるなんて、こりゃあ、火遊び失敗だなと、キールはへへへと苦笑いを浮べた。
「エイミーちゃん。こんな連中とつるんでたら、せっかく良いところの家柄なのに傷がついちゃうぜ」
「余計なお世話よ。どうせ全部嘘だったんでしょ?わたし、意外と信心深いのよね。それを弄んだ罰よ。痛い目に合わせちゃってよ、トーリオ」
 偉丈夫トーリオは任せとけよと言って、キールの髪を掴んで顔を上げさせた。
「よう、エロ坊主」と、トーリオはキールに顔を寄せた。「お嬢様を弄ぶとは、随分とふてえ野朗だな」
「ひぇぇぇ。どうかご勘弁を」
 偉丈夫トーリオの迫力に、キールは顔を引きつらせた。
「待ちなさい」と、そこでトーリオたちは呼び止められた。
 声のする方へ向き直ると、ちょうどロージーが現れたところだった。ゆっくりとこちらに歩いてくる。
「エロ坊主で太い奴で責任感も自覚も無い甲斐性無しっていうのは認めるけど、一応わたしの連れなのよ。わたしに免じて許しもらえないかしら?」
「ロ、ロージーちゃん!なんていいところへ。でも、いくらなんでもそりゃあ、言い過ぎだぜ」
 エイミーは頭巾で顔を隠すロージーを睨みつけた。
作品名:妖精戯談 作家名:ヒロアキ