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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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しんせつ保険

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みどりさんが残業を終えて、ようやくアパートに帰ってきたのは真夜中です。へとへとに疲れたからだをベッドに投げ出すと、大きなため息をつきました。
「あ〜あ、わたしってダメね……」
 みどりさんはとても人がよくて、自分が困ってもだれかのために働いてしまうのです。もちろん、それはとてもいいことなのですが、そのために仕事で失敗してしまうこともしょっちゅうでした。
 今朝は、落とし物を拾って交番に届けているうちに、自分が書類を落としてしまったのです。課長さんからクビだと言われましたが、なんとか許してもらって、残業して書類を作り直しました。
 みどりさんは、いつのまにか、うとうとと眠ってしまい、玄関のチャイムの音で目が覚めました。
「どなたですか?」
「夜分すみません。保険会社のものです」
と、男の人の声がしました
「なにかのお間違いじゃ……」
と、言いかけたら、背中の方で声がします。
「こんばんは」
 ドアも開けていないのに、男の人が部屋の中にいるのです。みどりさんは声もでないほどビックリしました。
「おどろかせてすみません。わたしはこういうものです」
 差し出された名刺には「天国保険相互会社 恵比寿大黒」とあります。
 この恵比寿さん、ずんぐりむっくりで、目尻の下がったふっくらしたほっぺは、どうやら本物のエビスさまのようです。
 おどろいているみどりさんにかまわず、恵比寿さんは言いました。
「あなたのしんせつ保険が満期になったので、お知らせにあがりました」
「しんせつ保険? わたし保険なんか、かけていません」
 みどりさんはすっとんきょうな声を出しました。
「いえいえ、これは生まれるときに天国で自動的にかけられる保険なんですよ」
 なんていわれて、信じる人がいるでしょうか。みどりさんも信じられません。
「掛け金は、あなたの親切です。生まれてからこれまで、あなたが人のためにした親切が、宝となって天に積み上げられたのです。生きているうちにこの保険が満期になる方は、そういるもんじゃありません」
 恵比寿さんは早口でしゃべり続けます。
「これまで、あなたにはついてないことがおありだったでしょう。でも今度はあなたご自身が幸せになる番です。このコースから、あなたが一番欲しいと思う幸せを選ぶことができるんですよ」
といって、色とりどりのパンフレットをカバンから出しました。
「ゴールドコースですと、運がつきまくって、宝クジなどがあたり、働かなくても一生暮らせます。シルバーコースでは、実業家になって、これまた大成功を収めます。レインボーコースだと、あなたの才能が花開いて、たとえば芸能とか文筆活動で有名になります」
 みどりさんはけげんな顔をしました。
「そんなことが幸せなんですか?」
 すると、恵比寿さんは、ますますニコニコして言いました。
「あなたなら、きっとそうおっしゃると思いました。実は、一番のおすすめはこれです」
 それはバラ色のきれいなパンフレットでした。でも、何も書いてありません。
「ここに、あなたが一番幸せだと思う人生設計を書いていただけばいいのです。そうすれば、その幸せは一生続くのですよ」
 そうして恵比寿さんは消えてしまいました。
 残されたバラ色の紙に、みどりさんは自分の夢を書き込んでみました。
 ところが、朝、目が覚めると、机の上に置いた紙はなくなっています。
「やっぱり夢だったんだわ」
と、みどりさんはくすっと笑いました。でも、なんだか幸せな気分でした。
 その日の夕方、会社から帰ろうとすると、知らない若い男の人に声をかけられました。
「昨日は書類を拾ってくださって、ありがとうございました。おかげで仕事がうまく行きました。お礼が言いたくて、交番であなたのことを聞いてきました」

 一年後、その人はみどりさんのだんな様になりました。
 かわいい子どももうまれました。
 それから郊外に小さな家を建てました。
 庭には四季の花が咲き乱れ、親しい友だちが訪ねてきて楽しい時間を過ごしていきます。
 みどりさんがバラ色の紙に書いたとおりに、幸せはいつまでも続いたのです。
作品名:しんせつ保険 作家名:せき あゆみ