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ひとでなしのゆめ

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あお、車椅子、こがね色、水槽通路、グリップ、みどり、古ぼけた振り子時計、




ひとでなしのゆめ





久しぶりに色があった夢を見た。どこもかしこも色鮮やか。
でもそんなにはっきりとした色ではなくて、どこかぼやけた曖昧な色。クレヨンで塗りつぶしたような、でも水彩も交じった深く淡い色使いの世界。
古い建物のような場所。木造の床に、いくつもの大きなテーブルに、天井。
用意されたあたたかな夕食、立ち上る湯気、かちゃりと音を立てる冷たいスプーン、振り子時計が時をゆったりと刻む音、床かテーブルかがきしきし、と軋む音。クリアに音が耳まで届く。
あたしの前には二人の女の人がいた。声や顔はもう思い出せない。だけどひどく優しく笑う人だったことだけは覚えている。一人は栗色の髪をした子どものような女の人。もう一人は麦の穂のような髪の色。とても柔らかく、あたしに丁寧に喋りかける人。そして、あたしはただ黙って聞くだけ。
雨漏りしそうな天井の色もずいぶん古いもののように思えた。天井がきし、きし、と鳴り続けているのにも関わらずあたたかな夕食をゆっくりと時間をかけて食べた。クリームシチューのような食べ物だった。
食べ終わった後に、栗色の髪の女の人から何かをたくさん聞いた。何かはもう思い出せない。ただ、言い聞かせるように言う。あたしはそれに黙って頷く。
そして大きな部屋の中にぽつんと存在する木製の扉の前まで行って、ノブを回した。回した瞬間に、あの人がいると思うけど、と後ろから言われたような、そうじゃなかったような。
扉を開くと一面のぼやけた青だった。まるで水底。正確には、ぼやけた青緑。海の中の、森。
小さな魚の群れが泳ぎ、大きな海亀が横目で横切ってゆく。ところどころに、きれいとは言いがたい虹が小さくかかっていた。
狭い通路は円を描くように大きくカーブを描いていて、その両壁一面がガラス張りだった。ありえない。だって振り返れば出てきた扉の向こう側までぼやけた青緑が広がっていた。扉だけは、そこに存在してる。そして目の前に、車椅子に誰かが座っていた。あたしは躊躇もなく、その車椅子のグリップを握り、歩き出す。押す力はあまりいらなかった。重くも、軽くもない。ゆっくり歩く。通路には真っ赤な絨毯がどこまでも敷いてあるようだった。
きしきし鳴る車椅子に乗った誰かは、男の人だった。黄金色の髪。彼は気兼ねなくあたしに喋りかけてきた。たぶん、天気の話をした。楽しそうに照れくさそうに話す声はどこかで聞いたことがあるものだった。
だけどやはりあたしは黙ってそれを聞く。喋らない。

ずっと永遠に続いてくような、螺旋階段のような狭い通路を淡々と進む。
水槽のような道。青緑のせかい。音はきしきしと鳴る車椅子と彼の声と呼吸音だけ。
ふと、車椅子を押すために握っているグリップを見下ろした。そこにあったのは、ひとでなしの手。


そうして最後、彼が振り返って笑う瞬間に、


目が 覚めた。

作品名:ひとでなしのゆめ 作家名:水乃