最後のハイタッチ
登場猫物
しまくん (十五歳)
みーくん (十四歳)
クロッチ (二歳)
ブッシー (五歳)
〇自宅 階段 猫ドアの近く
しまくんが横たわっている。
その表情は大変疲れた顔をしている。
しまくん「痛たたた、どうやら、昨日階段を踏みはずしたのがダメージとなったようだ。おれっちも、もう長いことはないな。皆のことが心配だな。そうだ、公園に住んでいるブッシーくんにバトンタッチしてもらおう。」
いたたた、痛みを振り絞って立ち上がる。
〇 猫の部屋
しまくんが、寝ているみーくうん、クロッチをみながら
しまくん「(心の中で)みんな、俺っちはチョイと用があるんで出掛けてくるね」
〇 公園 夕方
木々に囲まれた公園。
公園の中央にある歩道をしまくんが歩いてくる。
ブッシーが歩道脇のベンチの上で横になって寝ていると、半分目を開け起き上がる
ブッシー「おんや?」
遠くから歩いてくる猫の姿。しまくん。
ブッシー「あの格好に見覚えが。しまくんだ!」
ブッシー声をかける。
ブッシ―「しまくん!」
立ち止まるしまくん。表情が疲れ気味。
ブッシー、走ってしまくんの前に。
ブッシー「しまくん、どないしたん。こんな遠いところまで。疲れ切った顔しとるで。
どこに行くんや?」
しまくん「ちょっとブッシーくんに頼みたいことがあってな来たんや」
ブッシー「おいらに」
しまくん「そうや」
ブッシー「なんや」
しまくん「俺っちのいない間、みーくんやクロッチ、おれっちに代わって面倒みてくれへんか」
ブッシ―「そら、構わんけど」
しまくん「約束やで。そんなら約束のハイタッチや」
しまくんとブッシー、右手と右手、左手と左手で交互にハイタッチする。
ハイタッチしながら
しまくん「おれっちとブッシーと最後のバトンタッチや」
ブッシー「(怪訝な表情で)バトンタッチ?。なに、それ。
なんか意味あんの」
しまくん「ない、なんもない」
しまくん、踵を返して公園の奥のほうに歩きだす。
ブッシー「しまくん、帰りは反対方向やで、それとも他に用があるんか」
しまくん「{振り向いて}ちょいと天国までな」
怪訝な顔をするブッシー
ブッシー「天国?」
しまくん「あはは、冗談、冗談や。ちょいと、この先まで小用があってな」
ブッシー「すぐ戻って来るんか。顔色わるいで」
しまくん「運がよけりゃすぐもどって来るし。」
ブッシー「(泣きそうなな表情で)なんか知らんけど涙がでてきたぞ」
しまくん「泣くなブッシー。十五年も生きてりゃいろんなことがあるさ。俺っちのあとを決して追いかけてくるんじゃないぞ。」
前を向きなおして歩いていくしまくん。
見送るブッシー。
〇 自宅 猫ドアの近く
寝ているしまくん。
自分をみているみーくん、クロッチ。
薄目を開ける、しまくん。
みーくん「しまくん、具合わるいんか、」
しまくん「心配ない、さっき、ブッシーのいる公園へいってきてブッシーとバトンタッチしてきたよ」
みーくんとクロッチ顔を見合わせ、
クロッチ「何言ってん、ずーっと、ずーっと飯もくわないでここで寝てばっかしいるじゃん。具合悪かったら飼い主さんに頼んで病院へ連れていってもらおうか」
しまくん「心配ないって。…眠いからもう少し寝させてや」
目を閉じるしまくん。
顔を見合わせるみーくんとクロッチ。
〇 公園 夕方
意気揚々と軽快に歩いていくしまくん。
笑顔のしまくん。
〇 自宅
二匹、階段を駆け上がる
みーくん、クロッチ「にゃー」
おわり