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優しさに感染した男
優しさに感染した男
novelistID. 61920
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人生という名の・・・

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人生という名の・・・



気が付くと電車の中にいた。
ガタガタと揺れる車内。私の座っている座席の左右には見知らぬ男性と女性が座っていた。
いや、どこかで見たことがあるかもしれない。
「お目覚めですか。」
左の女性が微笑みながら私を見つめた。引き込まれるような優しい、柔らかい声だった。
「ええ。でもなぜ私はここに・・・」
私は言いかけて黙った。
「すいません、あなたが知る訳もないですね。」
「実は、私も分からないのです。気づいたら、ここに。」
「そうなんですか。」
「ええ。」
困ったように女性は微笑んだ。
「ここに乗っている人はみんなそうみたいですよ。僕も、そうだ。」
今度は右の男性が口を開いた。少し緊張感のある、でもやはり優しい声だ。
「ここに乗っている人・・・」
私は辺りを見渡す。
私の座っている座席には今話した女性、男性の他にも多くの人々が乗っていた。
向かいの席、その隣、その向かい、その隣・・・
めいっぱい体を曲げて遠くを見たが、車両がどこまで続いているのか分からない。
「沢山人がいますね。」
「僕は君の左にいる、女性を見つけて話すうちに意気投合していたんですよ。そして気づいたら君がここに。」
「はあ・・・」
頭がぼーっとするようだった。あまり考えても仕方のないような気がしてきた。
「私、少しこの車内を探索してみます。」
立ち上がると左の女性が引き留めた。
「一人で平気?心配だわ。」
「いえ、大丈夫です、それに、」
それに、一人で行かなければならない気がした。
私がここにいる意味、この電車に乗ったいる理由が知りたい。
「君なら大丈夫さ、きっと。」
「はい。」
「気を付けてね。そして、きっとこの席に戻ってきてね。」
「いってきます。」
私は席から立った。
右へ行こうか、左へ行こうか。
決めるのは自分だ。


 この電車には実に色々な種類の人間がいる。
優しそうな人、怖そうな人、各々が何かを探しているのか。
さまよいながら、席に座りながら、皆、何かを考えている。
時折、魅力的な人を見かける。
カッコウが良くて、つい引き込まれそうになる。
でも、時折嫌な人もいる。こちらを睨んだり、嘲笑したり。
ただ、そのどちらの人間もすれ違ってしまえば、どうということはない。
どこにでもいるのだろう。
重要なのは、すれ違う人ではなく、対岸にいる人ではなく、最初に会ったあの優しい男性と女性のような、私の隣にいる人だ。
「ねえ、そこの人」
不意に声をかけられた。まさに今すれ違おうとした座席に、私を見る女性がいた。
「はい。」
「隣、座らない?なんとなく、あなたと話がしたいの。」
この女性の声はまた、優しく、引き込まれる。ただ、最初に会ったあの二人とは少し違った。
違う安心感というか、
「いいですよ」
私は女性の隣に座った。
「あなたも自分がなぜ、この電車にいるのか分からないの?」
「はい。それを知りたくてこの車内を探索しているんですが、なかなか。」
「そうなの。私も色々と探索して、いろんな人と会話もしたんだけど、分からなかった。」
女性は俯きながら微笑んだ。
「もしかしたら、答えなんてないのかもね。」
「そう、ですね。」
「君、隣、いいかな。」
突然、見知らぬ男性が女性の隣に座った。
「失礼するよ。」
私達の返事も聞かず、男性は座った。
「今歩いていたら、君たちの話が耳に入ってね。僕も色々と探しているんだけど、答えが見つからない。」
男性はにこやかに話した。
「そこの君が言った、『答えなんて無い』っていうのが答えなのかもね。」
「あなたもそう思う?」
女性が目を輝かせながら男性を見る。
「良かったら僕と一緒に車内を探索しないか。」
私は何か嫌な予感がした。この男についていってはいけない。なぜか、そう、思った。
「あの、ちょっといいですか。」
私は割って入る。
「何だよ。君は関係ないだろう。黙っててくれ。」
男性は訝しげに私を見た。
「いえ・・・」
私はその威圧感に気圧されてしまった。
「そういう言い方はないんじゃない?」
女性が男性を睨んだ。
「ごめんなさい。気が変わったわ。あなた何か嫌な感じ。」
「そうか。ふん、好きにすればいいさ。」
男は大きくため息をつくと立ち上がり、背を向けて歩き出した。
私はハッとした。
男の後ろのポケットにナイフのような光るものがあったからだ。
女性も気が付いたのか、唖然としている。
「ありがとう。あなたがいなかったら私、あの男についていってた。」
女性が私に頭を下げる。
「いえ、良かったです。なにも無くて。」
「私、そろそろ行こうかな。」
女性が立ち上がった。
私も立ち上がった。
「ありがとう。私と出会ってくれて。短い間だったけどね。」
「こちらこそ、ありがとうございます。」
「また、会えるといいね。」
「はい。」
私と女性は反対方向に歩き出した。

しばらく車内を歩いていると何度も先程と同じような経験をした。
呼び止められて、呼び止めて、色んなことを話したり、色んなことを言われたり。
助けたり、助けられたり、傷つき、傷つけ、
強引な人もいれば優しい人も。最初は印象が悪かったのに話すうちに大切な人になったり、
その逆も。
でもその人たち全てが私から離れていった。すれ違っていった。
後ろを振り返るとそこには彼ら彼女らの姿は無い。
すべて私の心の中にあった。
間違えなく、彼ら彼女らは私の一部になった。



繰り返しの果てに私はある座席に座った。
隣に座っている男性は、今まで出会った人とは違う。
そう、心を許してもいいと感じた相手だった。







気が付くと電車の中にいた。
ガタガタと揺れる車内。僕の座っている座席の左右には見知らぬ男性と女性が座っていた。
いや、どこかで見たことがあるかもしれない。
「あ、目が覚めた。」
左の女性が少し嬉しそうな顔で僕を見つめた。引き込まれるような優しい、柔らかい声だった。
「ここは・・・どこ?」
僕は尋ねた。