待蛸
背丈は、わたしと同じか、少し低いほどか。意外だった。
出版かプレスの業界を思わせる若者ないし中年の男たちと行動している。
相手は流行作家。華やかで都会に住んでいる。こちらは田舎の偏屈じいさん。歳は四つしか違わないが、わたしには、無知で無教養の田舎者だという負い目があった。
──高橋源一郎って人がいますね。
わたしは、ラジオで作家の高橋が言っていた話を持ち出した。
──そんなひとはいない。
待蛸はそっけない。いまが忙しく、部外者の質問など意に介さないようすでいる。
──いないって。どうしてそう言い切れるんですか。
わたしは意地悪だった。この掛け合いは相手に不利だ。なんとかして、この好きだった作家のことばの隙を衝こうと考えている。
高橋源一郎がラジオでの話の中で、意図的に落とした言葉について、待なりの考えを引き出す腹なのだ。
そこは文学の要諦であると思われた。
夜のイベント会場には、テントや店が立ち並び、都会のど真ん中を思わせる賑やかさと明るがあった。
聞く相手を間違えたのかもしれないと思った。