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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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L K ゼロ 「スピンオフ」(仮題)第7話まで公開

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第6話 エイラット紛争



「こちらブラボー小隊。ラウド・アンド・クリヤー(感度良好)聞こえています」
[(ザザッ)こちら大隊本部。作戦指令コード098を実施せよ。オーバー]
「(ザッ)指令コードをもう一度お願いします。オーバー」
[作戦指令コード098。繰り返す。指令コード098が発令された。オーバー]
「コピー。作戦指令コード098。」
 ここは紅海に面した中東の港町エイラット。イスラエル領のわずか10キロの海岸線を挟んで、西にエジプト、東にヨルダン国境に面し、さらにその先のサウジアラビアと4か国間での緊張が高まっていた。

 俺の名前はオコーネル・ジョーンズ。アメリカ海兵隊第8司令部、ブラボー小隊所属の二等兵だ。この砂漠と海の間にある港町に派兵されて2カ月が経つ。かつてアメリカはサウジ、ヨルダン、エジプトと良好な関係を築いてきたはずなのに、政治の世界は俺にはよく解らない。ゴタゴタが続いて、今じゃエイラット紛争とか呼ばれ、アラブの国々がこのイスラエルの地を踏むことは、絶対に阻止しなければならない。

 俺は無線を切るとすぐさま立ち上がり、テントの外に走った。外は日が高く、海岸沿いの宿営地を眩しく照らしている。装甲車に装備を積み込む兵士たちの横をすり抜けて、エミリオ・ロペス小隊長のもとにたどり着くと、
「小隊長。エジプト軍はサウジアラビアに空爆を開始しています」
「ああ、爆音が聞こえてくるぜ」
「イスラエル軍からも、ヨルダン軍に動きがあったと報告。大隊から098が発令されました」
それを聞いて、周囲の兵士たちの手が止まった。ロペス小隊長は、一瞬、太陽にきらめく海を見た後、
「みんな今のうちに海をよーく見ておけ、1時間後には砂漠しか見ることが出来なくなるぞ!」

・・・・・・・・・・

 その日の夕暮れ、ロペス小隊長率いるブラボー小隊は、ヨルダン国境近くの町の民家に身を隠していた。指令コード098とは、近くに迫った敵をハンドキャリー式の誘導ミサイルで、一斉制圧する作戦のことだった。
「サウジアラビア軍が、ヨルダンを通って近くに迫っていることは判っていたのに、どうしてこんなことになっちまったんだ!」
俺は今にも泣きだしそうな声で叫んでいた。それをなだめてくれるのは、戦地での経験が豊富なブラウン一等軍曹だった。
「オコーネル、落ち着くんだ。こういう時、焦ったやつから死んでいくもんだ」
「でも、もう4人も殺されたじゃないですか!」
「あと5人生き残ってるだろ。この5人で基地に帰るんだ。そのあとは一緒にアメリカに帰ろう」
俺はつくづく自分がチキン野郎だって思う。グアムに駐留してた頃は、いい気になって夜の街で粋がってきたもんだが、実戦となりゃ、まだ気持ちの整理が付けられていなかったかもしれない。

 この民家の住人は7人。俺たちによって強制的に両腕を縛られ、台所に集められている。つまりアメリカ軍による不法占拠状態であることは明白だが、事態はそれほどまでに切迫していた。ロペス小隊長が自分の部隊が罠にかかったことに気付いたのは、すでに4人が死んでからだった。
 今から4時間ほど前、国境間際から、サウジアラビア軍に対し、生体誘導ミサイルをTOT(タイム・オン・ターゲット:同時着弾斉射)で制圧するはずだった。しかし、俺たちが攻撃してしまったのはヨルダンのゲリラ達だった。そのことに気付かず、ヨルダン領内に侵攻し、住民たちの怒りの反撃にあったというわけだ。
「ブラウン軍曹。もう3時間もこうしていますが、救援部隊はいつ来るんでしょう? 小隊長は、どうするつもりなんでしょうか?」
 大量の汗が止まらねえ。拳銃を片手に、俺は台所で住人たちの監視をしていた。
「オコーネル。俺たちゃ、命令に従うだけでいいんだ。他のことを考える余裕なんかない。目の前の任務に集中しろ」
ブラウン軍曹がグラスに汲んだ水を飲み干して、2階への階段に向かうと、俺は再び住人に拳銃を向けて、椅子に浅く座った。

「軍曹、この場を頼む」
 小隊長のロペスは、ブラウン含む隊員4名で、2階建ての屋上から、周囲四方の監視をしていた。もう3時間になり、一人ずつトイレ休憩を取ることにしていたのだ。
「了解しました」

 小隊長が階段を下りてきた。俺は立ち上がり敬礼して、焦りながら言った。
「いつまでこうしているんですか?」
「今は、小康状態だ。俺たちがこの家に隠れている事は知られていないから、誰も襲っちゃ来ない。今は救援部隊を待つんだ。ジェイ・ヴァン・デヴォス大尉は、俺たちを見捨てたりしない」
ロペス小隊長はそう言うと、トイレに入っていった。
「hal hdha jayid qalila?(あのう、少しいいですか?)」
この家の主人と思しき男が、話し出した。
「だ、黙れ」
「hal tueti eayilati sharab?(家族に水を飲ませてくれないか?)」
「何言ってるか解んねえんだ!」
「wa'iismahuu li 'aydaan 'an 'adhhab 'iilaa alhamam.(それとトイレにも行かせてやってくれ)」
「通訳は死んじまって、解かんねんだよ!」
「hal alrajul alssabiq alqbtan? hal tas'alni(さっきの男は隊長か?頼んでみてくれないか?」
「黙れ!解んねえのか!」
俺は銃を向けて怒鳴った。そこに小隊長が戻ってきてくれた。
「どうしたんだ?」
「alma' walmarhad(水とトイレだ)」
その主人は中腰に立ち上がって、小隊長に近付こうとした。俺はとっさに拳銃を突き付けて、引き金を引いてしまった。
 パンッ!という甲高い音がして、その男は再び膝ま着いたが、そのまま土間に倒れこんだ。
家族は全員大声を上げて叫んだ。小隊長は黙らせようと、慌てて両手を上下に動かしたが、怒りと悲しみに満ちたその声は、一向に鳴りやまなかった。
「黙れ!黙れ!だまれ!」
俺は拳銃を振りかざして、叫んだ。そいつらより大きな声で叫ぶしかなかった。再び拳銃を向けて威嚇した。するとようやく彼らは叫ばなくなった。しかし、女たちは泣きながら家の主人に覆いかぶさり、男たちの眼は憎しみに満ちて、俺を睨んでいる。
「すまない。こんなはずじゃなかったんだ。衛生兵も殺られて、手当ができない・・・」
小隊長が主人を仰向けにすると、その見開かれた眼は、既に光を失っていた。

「小隊長!」
 階上から声がした。ブラウン軍曹の声だ。
「どうしたんですか!?」
「事故だ! 銃が暴発したんだ」
小隊長は俺を、こんな俺をかばってくれている。
「外はまずいことになっています。周囲の住民がこの家を見ています。潜伏がばれました!」
「すぐ行く!全方位警戒せよ!」
「了解!」
「オコーネル。落ち着くんだ。この住人を縛れ。外に逃がすんじゃない。主人が死んだことがばれれば、一斉に攻撃される。俺たちは民間人と交戦なんか出来ない・・・」
「おいおいおいおい。ちょっと待て・・・」
また階上からブラウン軍曹の声が聞こえてきた。

 ブラウンは気付いた。30メートルほど離れた民家のベランダに機関銃を持った男がいることに。
「こっちに向けるな。向けるなよ」