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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『猿夢』 下

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10、まもなく電車が到着します



 『まもなく 電車が 到着します』

 アナウンスを受けて、四人は視線を交錯させる。

「電車やて……? え、待ってや」

 タンの声から、焦燥が滲み出ていた。

 バリツは、唐突に目の当たりにした。
 タンの目から、見る見るうちに正気が失われる瞬間を。
 ロッカーを一人で探っていた、あの時と同じだ。

「待ってや……乗らないと、乗らないと、ここから――」
「おい! タン君!」

 ドアへ早足で向かうタンに駆け寄り、肩をゆさぶると、一瞬、タンは発作を起こしたかのように小さく跳ね上がった。
 バリツはぎょっとしたが、振り返ったその目には、正気の光が宿っていた。

「え! 俺またやらかしてたん……!?」
「未遂ですんだがね。しかし一体どうしたのだタン君」
「なんやろ、ここに来たときから何かにずっと見られてるような感じなんや……たまに意識も飛ぶし。ってかアレや、今も声聞こえる」
「声?」
「『電車が着てるよ、こっちだよ』……って」
「……あの、タン君。それ絶対アカンやつじゃないかな……」
「あー、所長、ちょっと言ってる側からやば……行かなくちゃ、行かなくちゃ―ー」
「ちょ、おい、タン君――」

 タンの頬を、斉藤が思いっきりビンタしたのはその時だ。

「あいだあああ!?」
「どうだ? タン。正気にもどったか?」
「そこまで強く叩かなくてもええやん! 別の意味で意識飛ぶわ! 首も痛――」

 一同は、沈黙する。
 アナウンスの通り、分厚いドアと壁をすり抜けるようにして、ホームから電車が来る音がした。

 バリツの胸のうちにも、焦燥がこみ上げた。
 仮説が正しければ――どこかへ向かう電車は、恐らく二種類。
 片や、人間の世界。片や、猿達の世界。
 人間界行きの電車の存在は、エリックが保証してくれている。

 だが、あの電車は何だ?

 脱出のチャンスか? 罠か?
 新手の敵を満載している可能性すらある。
 しかし万が一、あの電車が正解だったとしたら――?

「ひとまず皆」
 落ち着いた様子で――むしろ、一同を嗜めるように、バニラが呼びかける。
「この駅長室では、何かみつかったかい?」
「あ、ああ……まずはそこからだね」

 逸る気持ちを抑え、簡潔に、三人は駅長室での発見をバニラに共有する。

 その後ふと、時計を見やり、バリツは戦慄した。
 どういうことだろうか。針がいつの間にか、ごっそり消えているではないか!
 これでは正確な時刻が掴めない。

「いやー―致命的ではないよ」

 僅かに驚いたように見えたものの、バニラはすぐに頷いた。

「最後に時計を見た時は何時だったかな」
「10時10分だね」
「それから間もなく、俺が皆と合流して、あの騒ぎが起きた形だね」
「ああ」
「すごく長い時間に思えたけれど、実際の時間は、5分程度しか立っていないはずだ」

 バニラは懐からデジタルカメラを取り出し、時刻表を改めて表示してみせる。

『普 1 :00』 『さ   :30』

「バリツの話に基づくなら、今の時刻はおよそ20分ごろということになるはずだ」
「ということは――」
「さ、の時刻表で考えたほうがいいと思う」
「仮説に基づくなら――深淵へ向かう電車か」
「んー、そうだね。普、が人間。さ、が猿の世界という保証はないのだけれど、さっきのタンの様子見るにあまり向かいたくはないからね」
「悪かったなあ」

 タンは斉藤に叩かれた頬をさすりながら、憮然と応える。

「ところでよう、いったん外の様子をみたいんだが――」

 まだ冷静さを保ってはいるが、斉藤の声には焦りが滲んでいる。
 電車の心配ではなく、猿達を気遣ってのことであることは想像に難くない。

「斉藤君。まだ危険ではないか?」
「外から音はもう止んでいる。大丈夫なはずだぜ」

 斉藤は先陣をきってドアへと向かう。
 だが、押せども、なかなかドアが開く様子はない。

「何か外に倒れてやがる」
「手伝うで」

 タンが斉藤を手助けしにいく姿を横目に見守りながら、バリツはバニラに声をかける。

「――構わないと思うかね?」
「んー、どちらにしても、ここにずっと引きこもっているわけには行かないからね。それより、まだロッカーは調べてないんだよね?」
「そうだね。私が開けてみよう」

 バリツはロッカーに歩み寄り、手をかけた。
 開いた途端、
「ぬ!」

 中から何かが倒れてきたのを受け、思わず後ろへ飛びのく。
 それはそのまま倒れこみ、深々と積もっていた埃を舞い上げる。

 それは駅員服姿の男性――正確には、その干からびたミイラだ。

「……何故こんなところに、こんな……」

 ミイラこそ冒険家教授の経歴の中で触れる機会は多くあった。
 だがこのミイラはエジプトのファラオやチベットの即身仏とは根本的に異なる。
 経緯はわからないが、彼もまた十中八九、怪異の犠牲者なのだ。

 立ちすくむバリツの隣で、バニラが冷静に死体へ屈みこむ。
 バリツもそれに習った。思考を止めている場合ではない。

「死体を探るのは気が引けるが――」
「やるしかないよ、バリツ」
「うむ……」
 
 二人がかりで、恐る恐る(バニラはバリツ以上に手際よく)死体を探る。
 ポケットには何もなかったが、水気が無くなったその手に何かが握られていることに気づいた。

 一枚の紙と、小さな鍵だ。
 くしゃくしゃの紙を広げる。


 『幸運の女神には前髪しかない 裏も大切』


「これは……どういう意味だと思う? バリツ」
「この逸話は聞いたことがある。チャンスは一度きり、という意味の、海外のことわざだね」
「んー、どういうことだろうね? この紙の裏は?」

 バニラに促され確認するが、そこには何も記載されていなかった。

「待てよ、もう一枚のメモ――」

 思い至り、バリツはデスクに向かう。
 あの襲撃の際に手放したメモが、まだテーブルの上にあった。
 
『今すぐ鍵を閉めて やつらをやりすごせ』

 裏を見やる。

『直後の電車はフェイクだ』

「――驚いたな。まるで見通しているかのようではないか……」
「タネはわからないけれどね。鍵は恐らく――もう一つの引き出しのものかな?」
「うむ」

 手に入れた、もう一つの小さな鍵で、大きな引き出しを開く。
 そこには、手の平大の、無骨な機械があった。

「バリツ、それは――?」
「幼い頃、見覚えがある。『ポケベル』と呼ばれるメッセージ機器だ」

 ポケベル。無線呼出し機とも呼ばれる、かつて一世を風靡した、文字のみの簡易なやりとりを可能とする機械だ。

 今は何も、画面には表示されていない。

 鉄のドアが、騒々しく押し開かれる音に、二人は入り口を振り向いた。
 何かが外に引っかかっていた為に、時間がかかっていたが、ついにドアを押し開けることに成功したらしい。

 斉藤が真っ先に外に飛び出していた。

「なんだこりゃ! 嘘だろ……」

 バリツはバニラに目配せし、互いに頷いた。
 斉藤の姿を追い、外へと出る。
 
 そして――絶句した。生々しい臭いに、鼻を覆った。

 血とオイルが床一面を覆い、機械と肉片があちこちに散乱していた。