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ゴムボート・ライフ

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ゴムボート・ライフ
【著】松田健太郎

●登場人物
◯ゴッフ
◯アレン
○ルバナ
○アレルッキモ


アレルッキモ『ゴッフ、アレン、ルバナはゴムボートで漂っている。』

ゴッフ「ううぅん……わ、まぶしっ目が、目がああぁぁあ」
アレン「うぅるさいなぁ、ふがあっや、焼けるっ!!」
ルバナ「やっと起きたか。暴れるな。落ち着け」
ゴッフ「何も見えない……」
ルバナ「すぐに慣れる。数日ぶりの陽の光だからな」
アレン「す、数日?そんなに寝てたのか」
ルバナ「ああ、お陰で食料には困らなかったよ」
アレン「まさかお前!俺らの分まで」
ルバナ「安心しろ、残してある」
ゴッフ「……なぜ食わなかったんだ?」
ルバナ「労働力が必要だからな」
アレン「アレルッキモはどうした?」
ルバナ「消えたよ。ボートから突き落とした」
ゴッフ「あの野郎、殴りやがって、おれは数日気を失ってたってのか」
アレン「待てよ、突き落としただって?なんだってそんなことを」
ゴッフ「おい気にするなアレン。アイツのせいでおれたちは死ぬとこだったんだ」
ルバナ「君らが殴られて、起きてこないから死んだのかと思ったよ。おれ自身アイツが
殴りかかってこなきゃ、突き落とそうなんて思わなかったさ。あの時はな」
アレン「何があったんだ?」
ルバナ「一昨日のことだ」



アレルッキモ『ゴッフとアレンが気をおかしくした僕に殴られ気絶した翌日。ルバナに縛り付けられた僕は奇声を上げた』
アレルッキモ「うきゃああうきゃああああ」
ルバナ「暴れるなアレルッキモ」
アレルッキモ「がぁぁ……がぁあああ!」

★ルバナはアレルッキモの右頬を殴る。パキャと力のない軽い音だったが、消耗している彼らには重いパンチだった。

アレルッキモ「うぅ……殺せぇ……殺せよぉぉお」
ルバナ「嫌だ」
アレルッキモ「うきゃあああ」
ルバナ「体力を消耗するだけだぞ」
アレルッキモ「がぶぁぁ!」

★気絶しているアレンの足に噛みつくアレルッキモ。

ルバナ「よさないか」
アレルッキモ「うるさいんだよぉルバナぁぁ」
ルバナ「いでぇ!なにをするっ」

★ルバナの指に噛みつき食いちぎるアレルッキモは顔面を殴られて後ろに倒れ込む。

ルバナ「……うぐぅ」
アレルッキモ「はがぁ……ふがぁあ」
ルバナ「……おまえを置いとく訳にはいかないかもな」
アレルッキモ「うぇへ、うきゃああ」
ルバナ「これは身を守るためだ、仕方のないことだ」

★ルバナはアレルッキモをゴムボートから突き落とした。

アレルッキモ「ふばべっぼぉぶぶぶぶ……ぶほっ……ぶぶ」
ルバナ「すまねぇ、すまねぇアレルッキモ」

ルバナ『多少溺れてはいたが、そんな体力もなく、アレルッキモはすぐに沈んでいった。その透明な海には、うっすらと沈みゆくアレルッキモが揺れていた。』
アレルッキモ『これで…よかったんだ…』


アレン「足が痛いのはそのせいか」
ゴッフ「ばい菌が入って腫れてるじゃねぇか」

アレルッキモ『すまなかった…』

アレン「兄貴ぃ、消毒できないかな」
ルバナ「できない、俺も右手が動かなくなってきたよ」
ゴッフ「全員抵抗力が落ちてるからな」
アレン「いでぇよぉ」
ルバナ「早く島を見つけるんだ、食料も尽きてしまう」
ゴッフ「……」
アレン「……」
ルバナ「……」

アレルッキモ『体力温存のため、会話もなく全員が違う方向を見張る。何かを見逃すことがないように。すると…』

アレン「……」
ゴッフ「……ん」
ルバナ「……ん?」

アレルッキモ『ゴッフはうっすらと視界に映ったものに意識を向けた。』

ゴッフ「あれ……なんか」
アレン「え、どれ……」
ルバナ「……島?島だぞ」
ゴッフ「島か、人がいるかも」
アレルッキモ『本当か!それはよかった!』
アレン「漕ごう」
ルバナ「みんな大丈夫か」
ゴッフ「見えてるんだ、やろう」

アレルッキモ『全員でゆっくりと、全力でゆっくりとゴムボートを漕ぎ進める。少しずつ島が大きく見えてきた。島が近づく。三人は息が絶え絶えになりながら、なんとか漂着した。』
アレン「何か食べ物……」
ルバナ「手分け、しよう」
ゴッフ「人はいない、のか?」
アレン「……どうだろう」
ルバナ「なんでもいいから探すんだ」
ゴッフ「……はっ」

アレルッキモ『ゴッフは何かを見つけたのか、フラフラと駆けていく。そこには果物の木があった。アレンとルバナを呼ぶ前にかぶりつく。』

ゴッフ「うめぇ、うめぇ」
アレン「ゴッフ、何か見つけたのか」
ゴッフ「果物だ!うまいぞ」
ルバナ「ほんとか」
ゴッフ「助かった、助かった」



アレルッキモ『島について数日が経とうとしていた。』

ルバナ「ちくしょう……早く島でも船でも見つけないと……」
アレン「ゴッフ、ゴッフ」
ルバナ「どうしたアレン」
アレン「ゴッフが息をしてない」
ルバナ「寝てるわけじゃないのか」
アレン「ゴッフ!!」

アレルッキモ『アレンはゴッフを出せる力の限りでたたき起こそうとする。何度か、どの部分をたたいても動くことはなかった。』

アレン「ケガをしてないゴッフの方が先に…」
ルバナ「アレン、ゴッフを海に」
アレン「……え」

アレルッキモ『……え』

ルバナ「……おれがやる、アレルッキモもそうした」

アレルッキモ『ルバナはゴッフを海に押し落とす。ドプン、と音が、すぐに波にかき消さ
れた。』

アレン「……サメ」
ルバナ「えっ」
アレン「……イルカ、かな」
ルバナ「アレン、何かみつけたか」
アレン「……なにも」

アレルッキモ『大海原の真ん中にゴムボートが浮き続ける。何日目だろうか、空気がいつ
抜けるかはもうわからない。』

ゴッフ『バラバラバラバラバラ。船が沈没した知らせから長期間捜索隊が出ていた。』

アレルッキモ・ゴッフ『バラバラバラバラバラバラ。海しかない空を、救助ヘリが飛んで
いる。』