久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上
リーウが間に入ってくれて、質問攻めは少し落ち着いた。
「私、メリア。調流師目指してるの」
「俺は、オルトア・デリス。空間工学が専攻」
皆が順番に自己紹介を始める。
「えーと、私は……」
「ノンノ・タカナシさんだよね。フーマと同じで名字と名前が逆なんだよね」
オルトアと名乗った男の子が言って、後ろの方できちんと自習しているらしい男子を指した。「あいつはフーマ・カクラ。アルティアとはいつもトップを争ってる優等生だよ」
あの人は――
さっきの授業の時に質問してた男子だわ――
「でも、ひょっとしたらタカナシの方が上かもな。これはすごいことだぞ」
別の男子が言う。
「そうだな。まさか瞑想だなんて思いもしなかったよ」
と、オルトア。
「そう……なのかな」
周りで勝手に盛り上がっているところに、暖野はぽつりと言う。「簡単なことを難しく言うのは簡単だけど、難しいことを簡単に言うのは難しいだけ」
「……」
うわ。これ、ヤバいかも。雰囲気ぶち壊した嫌な奴って、絶対に思われてる――!
「すげぇや。まるで盲点突かれてたってことか」
一人の男子が大げさに頭を抱える。
「そんなことじゃ、あんたは扉を開いた途端に呑まれちゃうわよ」
「うっ、うっせぇ! お前こそ、分からなかったくせに」
リーウに指摘されて、その男子はムキになって言い返した。
それを見て、暖野は自然と楽しくなってくる。
「で、まだ言ってなかったよね」
ひとしきり転入生を囲んでの会話が終わった後、リーウが言った。「私はね、飛行術を勉強してるのよ」
「それって、空を飛ぶっていう?」
「そう。だって、自由に空を飛べたら素敵じゃない?」
「うん。それは確かにそう思う。私も飛べたらいいのにって思うことがあるから」
「そうよね! やっぱり、ノンノって気が合う!」
リーウが抱き着いてくる。
「ちょ、痛いってば」
「ごめん。つい嬉しくなっちゃって」
リーウが照れ笑いする。「でもね、単独で飛ぶ方法はあるんだけど、大きなものを飛ばすのは本当に難しいの」
「ふうん、そうなんだ」
「理論的には可能なんだけど、今の段階では難しいみたいなの。何でも対象物の周りの空間を歪めてしまうことで重力場が異常を来して――何だったかな?」
「多次元に影響を及ぼす?」
暖野が答える。
「そ、そうそう! それ!」
リーウは得心しているが、暖野は複雑だった。
こんな知識、どこで――
なんか、魔術って言っても魔法陣とか呪文とかじゃないんだ――
このことも、意外に思った。
「ホント、ノンノって選ばれただけはあって、すごいね。感心しちゃう」
「いや、そんな……」
買い被りすぎだわ。だって、本気で魔術を勉強したわけでもないのに――
実際、魔術を勉強しているなどと言えば、変人扱いされてしまう。
「それで、ノンノはどんなことに興味があるの?」
リーウが訊いてくる。
「私は……」
暖野は考える。特にない。リーウのような目指すものもない。でも――
「そう……。世界の存在理由を知りたい」
そう、存在理由を。
自分の、そして――
……宇宙は……
――あるのか――
作品名:久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上 作家名:泉絵師 遙夏