小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

INDEX|114ページ/121ページ|

次のページ前のページ
 

9. 戯れ合い


 夕暮れ、陽もかなり傾いてから二人は学院へと戻った。
 バスに揺られながら居眠りしてしまったが、それでも暖野は元の世界には戻れなかった。こうなってしまえば、リーウの言うように諦めるしかなかった。
 遅くなった理由は、リーウが暖野の私服を買おうと言ったためだった。彼女の連れて行く店はどれも少女趣味のものばかりで、あくまでもシンプルでシックなものが好きな暖野とは対照的だった。
 せっかく異世界にいるのだから普段は着られないようなものを着てもいいようなものだが、さすがにセンスが許さない。暖野好みのものを見てみたいと言っても、そんな服は大人になってから幾らでも着られるからと、押し通されるばかり。結果として辛うじての妥協点がゴシック・ロリータだった。
 あの後のこと。
 もういい、好きにして――
 次から次へと出される派手な衣装に、暖野は見るのも億劫になっていた。
 暖野は疲れて、リーウに推されるままになっていた。全てではないにしても、言われるまま試着した。選んだ本人が気に入るまでそれは繰り返され、最終的には暖野の意見も入れて、色調だけは落ち着いたものになったというわけだ。
 買い物を済ませると、なぜか写真屋にまで連れて行かれた。
「はーい、カメラ見て下さいねー。ワン・ツー・スリー!」
 カメラマンの声に、虚ろな視線を向ける。
 暖野はゴスロリ衣装で椅子に掛け、リーウは――
 って、なんであんた、男装なのよ――!
 ただの記念写真だと言っていたが、それだけではないだろうと暖野は複雑な心境だった。
 写真が焼き上がるまで、半ば引きずられるようにして歩いた。後半は、とことんリーウに振り回された暖野だった。
 暖野は、両替でマナを使ったと言うリーウよりも疲れてしまっていた。
 正門を入る頃にはかなり暗くなっていたが、門衛もいない上に、寮でも特に何も言われることはなかった。
 そもそも門限も知らない。外に出ること自体が特例らしいため、時間については暖野の与(あずか)り知らぬことではあった。
「あー、疲れたー」
 リーウが部屋に入るなり足を投げ出す。
「それは、こっちの台詞よ」
 暖野はむくれて言った。町で着替えさせられた服のままだ。
「その格好で不機嫌な顔、萌えるねぇ」
「あのね」
 暖野は腰に手を当てて言う。「そういう変な趣味、どこで覚えたのよ」
「おー、そのポーズ最高よ! でも残念、カメラないんだな」
「もういい。お風呂行く」
 暖野はジャージとタオルを持って部屋を出た。
「待って! 一緒に行こうよ」
 リーウが慌てて追い縋って来る。
 ここの寮の浴場は、温泉施設並みに広い浴槽がある。
 沙里葉でも眺夕舘(ちょうゆうかん)でもバスタブはあったが、思う存分手足を伸ばすことは出来るほど広くはない。
 獅子の口から湯が吐き出され、湯面に波を立てて――
 違う――
 幾ら広くて開放的になるとは言え――
 あれは、やりすぎ……
 悠々と浴槽内で泳いでいるリーウを見て、暖野は心底思う。
 その奔放さが羨ましいと。
「暖野も泳ぎなよ。気持ちいいよ」
「私はいい。行儀悪いし」
 暖野は言ったが、それだけが理由ではない。暖野は泳げないのだ。辛うじて犬かきが出来るくらいだ。
「いいじゃない。誰もいないんだし」
 そう言って、リーウはまた泳ぎ出した。
 風呂上がり、暖野はリーウを連れて食堂へ向かった。
「ちょっと、何よ」
 早めの足取りで歩く暖野に手を引かれ、リーウが戸惑っている。
「いいから、来て」
 暖野は歩調を緩めない。かくなる上は――
「瓶の牛乳はありますか?」
 売店で、暖野は言う。
 それはあった。
 世界の掟を仕込んでやるからね。
「いい? これが風呂上がりのマナーなのよ」
 暖野は腰に手を当て、牛乳を一気に飲み干した。「さあ、次はリーウの番」
 その洗礼は、思った以上の効果を発揮した。
「あんたの世界って、これが必須なの?」
 牛乳は飲めないというのでフルーツ牛乳で勘弁してやったにも拘わらず、リーウは完全に降参した。
「ふふふ、参った? これが私の世界の大人の儀式なのよ」
 嘘だ。リーウがそれを知らないのをいいことに、傲然と暖野は言い放った。
「ごめん。私、ノンノの世界では生きていけない」
「大丈夫。慣れればね」
 いつかの言葉を返す。
「ほんと、参った。参りました」
 リーウが、暖野の肩に手を掛けて言った。
 部屋に戻る。リーウの部屋だ。暖野も自分の部屋はあるが4人部屋だ。一人でも二人でも、荷物のない広い部屋は寒々としている。散らかってはいてもリーウの部屋の方が居心地がいいとは言えなくとも、落ち着けることは確かだった。
「ねえ、アルティアさんも寮にいるのよね?」
 暖野は訊く。
 ここにいることは楽しいが、やはり戻れないのは気がかりだ。それに、大人びた雰囲気のアルティアなら、きっとましな服を持っているだろう。それを貸してもらえないか訊いてみようと思った。
「うん。いるよ」
 リーウが言う。
「私が帰れなくなったことも、知ってる?」
「知ってるはずよ。級長だし」
「会えないかな」
「どうして?」
「よく分からないけど、自分から話した方がいいと思って」
「あんたって、ホントに真面目ねえ」
 リーウは言った。「そんなの、別に自分から言わなくても。どうせ明日には会えるんだし」
「まあ、そうなんだろうけど。その明日があるも分からないし――」
 無かったら、それはそれでいい。元の世界に戻れるのだから、通いの者に関しては咎められることもない。しかし、現状ではどうも戻れる気がしない。
「そうだね。あんまり気が進まないけど」
 リーウが腰を上げる。「行く?」
 暖野は頷く。
「覚悟しといてね」
 何故か意味深にリーウは言った。
 アルティアの部屋は、同じ階の角を曲がった先にあった。
 リーウがノックする。
「はい、どなた?」
 いつもの澄ました声が聞こえる。
「リウェルテよ」
「ああ、ちょっと待って」
 ほどなくドアが開く。
 って、あなたまで――!
 アルティアの姿を見て、暖野は絶句した。
 そう、アルティアは、学校内での姿からは想像もつかないほどのゴスロリ衣装に身を包んでいたからだ。
「あ、あの……」
 ここまで来たからには当初の目的を果たさない訳にはいかない。暖野は口ごもりながらも言った。ただ、服を借りることは諦めざるを得ない。「ちょっと、お伺いしたいことがあって」
「そう」
 アルティアは涼しい顔で言う。「どうぞ、入って」
 室内は、リーウの部屋とは対照的に整頓されていた。だが、意外なことにここは二人部屋だった。
「ああ、彼女は同室のサーヤよ」
 アルティアが言うと、ベッドで本を読んでいたその子が目だけで会釈した。
 暖野も頭を下げる。
「で、聞きたいことって何?」
 アルティアが訊く。
「え、ああ。その……」
 暖野は言葉に詰まる。
「あの、戻れなくなったことを気にしてるの」
 リーウが助け舟を出す。
「ええ、そうなんです」
 暖野はそれで、何とか言葉を継げた。「それで、どうやったら帰れるのかも分からなくて……」
「そうなのね」