おしゃべりさんのひとり言【全集1】
その72 落とすと落ちる
「物を落とすと落ちる」
この日本語って変かな?
「落としたから落ちるの」か、「落ちるから落とす」って言うのか。
そもそも(なんで落ちるんだろう?)って思ったことないですか?
落ちることが前提になって生活しているから、「落とすと落ちる」んだろうな。
無重力の宇宙ステーションの中でなら、この表現はおかしいでしょ。
宇宙で「落とす」→「手を離す」と置き換えても、「落ちる」→「・・・」置き換える言葉が浮かばない。物は浮かぶんだろうけど。
これは重力のバランスの問題で、物理学を専攻した人には、ごく当たり前の常識だろうけど、僕は理解するのに結構時間がかかったよ。
「そもそも万有引力って何?」から始まるもん。
ニュートンが言う「すべての物には引力があって、リンゴが木から落ちるのは云云かんぬん・・・」って、理解しようと思ったことが無い。
それを正座し直して考えたのは、もう40歳の頃だった。
宇宙ステーションが宇宙に浮かんでいられるのは、重力のバランスが釣り合ってるからだ。
単に(宇宙は無重力だから)って思ってる人いっぱいいるでしょ。でもそうじゃないんだよ。地球から外側に向かって飛び続けてるだけなんだって。
そのために、推進エンジンを噴射して地球から上昇しようとする力と、重力に引っ張られて落ちる力のバランスがゼロになると宙に浮いて停まるのは分かるけど、そんな状態維持してたら、燃料代がバカにならんでしょ。
だから真上にじゃなくて、地球を周回する形で真横に飛ぶんだ。すると地球の重力で引っ張られて落ちそうになるけど、スピードアップしていくと、エンジンの出力方向とは違う、外側に向かって遠心力というものが働く。
「水の入ったバケツで遊んだ時、バケツを振り回してバケツの口が下に向いても水が落ちて来ないのは、遠心力が働いてるからなんだ」って言うのは、よくある解り易い説明だね。
宇宙船もその遠心力と地球の重力が、ちょうどプラスマイナスゼロになると、地球から一定の距離を維持したまま飛んで、地球の周りをくるくる回ることが可能になる。
空気抵抗があれば、また段々減速してしまって落ちてくるんだけど、宇宙空間じゃそれはない。
重力に引っ張られて落ちようとするけど、遠心力で外側にも引っ張られて、かつスピードを出し過ぎなければ、外にはじき出されることもなく、地球は丸いから地球の縁に沿って落ちながら、永遠に地球の周りを回り続けてしまうってことだ。
そのいいバランスで加速を止めて巡航となれば、重力はもうどの方向にもかからなくなるんだ。
月もこの理屈で地球の周りをまわっているし、地球もこれで太陽の周りをまわってる。その太陽も同じ方法で銀河の中を回ってるんだ。
てことは、これは宇宙全体に共通する物理の法則と言える。
でももう一度よく考えてみて?
この運動の法則では、地球の引力の説明にはなっていない。もともと地球には引力があって、物が落ちる前提で説明されている。
「じゃその引力って一体何なの?」
これは子供の時から不思議に思ってた。理屈が解らない。
地球は自転してるから、地上の物は遠心力で宇宙空間に放り出されそうなものなのに、すべての物は地面に貼り付いている。逆方向に何かもっと大きな力が働いてるってことだ。
「なんで貼り付いてしまうのかな?」ニュートンは「引力があるからだ」と答えている。
それでは説明になってないでしょ! コラー!!
面倒だけど、アインシュタインの相対性理論とか、量子物理学とかの解説を読んで、やっと理解出来てきた。
その難しい理論は置いといて、その理屈を理解する観点として、重さ(質量)と空間と時間の概念が必要。
質量の大きい物(強引に言い換えると重たい物)は、周りの空間にひずみを起こすんだって。
空間のひずみってどういうもの? 空間が重さでゆがむんだってさ。
宇宙空間で重たい物って何かと言えば、星だよね。太陽とか地球とか。もっともっと重たい星もいっぱいあるけど。
そういった重たい星の周りの空間がゆがんでいて、穴が開いたようにへこむんだ。そこに物が近付くと、その穴に吸い込まれるように落ち込む。
もっと解かり易く説明するために、トランポリンの例がよく使われている。
トランポリンの上に砲丸投げの鉄球を乗せると、表面が重みで落ち込むでしょ。その近くにゴルフボールを転がすと、鉄の球に吸い寄せられたように転がって、最後は鉄球に接する位置で止まる。
これが引力の正体。地球もこの状態で、僕らを引き寄せてるんだ。
さらに空間が重みで引き伸ばされると、そこに流れる時間も引き伸ばされてしまうから、距離が伸びてても余分に時間がかかるって感覚を得られないもんなんだって。
すべての物にはこの法則が自然と働いてて、僕ら人間の体重でもその周りの空間はゆがんでるし、卓球の球でさえもわずかな質量のせいで空間はゆがんでるんだって。それに気付かないくらい軽いだけで。
もっと重たい天体、例えばブラックホールなんて、ものすごい引力を持ってるけど、その理由はものすごく重たい星がそこにあるからなんだよ。
掃除機みたいになんでも吸い込む、宇宙に開いた穴じゃないんだ。その重力が強すぎて光も抜け出せないくらいだから、穴が開いたみたいに見えるだけで、実際そこにあるんだよ。時間の流れも止まってしまうくらい大きな質量の天体でゆがんだ空間が。
今の説明で理解できたかな?
これが物理学ってもので、すべての現象に理由を付けてくれる。
本当に興味を持って、よーく考えて読まないと難しい理屈だけど。
まだまだ理由の見付けられないことも多くあって気にはなるけど、僕は自分で解明する能力は持ってないから、誰かの説明に期待してる。
命って何なのか? そこに宿る意識って死んだらだらどうなるのか?
こんなことも、宗教論やオカルトじゃなく、物理学で説明してほしい。
作品名:おしゃべりさんのひとり言【全集1】 作家名:亨利(ヘンリー)