おしゃべりさんのひとり言【全集1】
その61 超スピード違反
昔、交通安全週間みたいなキャンペーンをテレビでやっていて、どこかの駐車場でトラックドライバーにインタビューしている様子が、生放送されてたんですが・・・。
「運転ご苦労様です。交通安全についてお話伺ってもいいですか?」
「ああ、いいっすよ」
「運転手さんは普段から、どんなことに注意して運転されていますか?」
「ああ、ネズミ捕りとか、白バイとかっすね」
確かに、こんなことに気を付けてる人の方が、安全運転してる人の数より多いのかもしれないって思った。
僕はちゃんと違反しないように心がけて運転しています。
でも、それを取り締まる警察側も意外に緩いよ。
僕にもこんな経験がある。
15年ほど前のある冬の日に、日本海にカニを食べに行くつもりで、高速道路を走っていました。
後部座席に、シートベルトした妻とチャイルドシートに載せた1歳の娘が乗っています。
助手席には柴犬のべスが座っています。(これはシートベルトしてません)
標高が高くなると、段々と雲行きが怪しくなり、雪がちらほらと降ってきました。
するとすぐ、その道路に速度規制がかかり、50キロ制限になりました。
僕はスピードを落としました。赤ちゃん乗せてるから当たり前です。
あるサービスエリアの出口に、パトカーが停まっているのを見付けました。
(ああやってスピード違反の車を見張ってるんだな)と思いました。
妻ともそんなことをおしゃべりしていました。
それから5分くらい経ったでしょうか。
ふとバックミラーを見ると、パトカーが赤ランプ回しながら付いて来ています。
「うわっ! しまった」
僕はスピードメーターを確認し、すぐにブレーキを踏みながら減速しました。
その瞬間、『プワァ~~~ン』とサイレンの音が聞こえました。
知らず知らずのうちに、つい、いつもの感覚で100キロくらいで走っていたのです。
そしてパトカーに先導されて、インターチェンジ出口に誘導され、広いガレージのような場所に停止させられました。
僕はすぐにドアを開けて、免許証を持ってパトカーに近付きました。
「すみませーん」
すると高速パトロール隊員が降りて来て、
「運転手さんは?」
その隊員、怪訝な顔をしています。そして僕の車の中を見に行きました。
その時、右側のドアから中を確認されました。その座席に座っていたのはべスです。
途端に笑顔になり、「左ハンドルだったんですか?」
どうやら左のドアから出て来た僕が、運転手だと気付かず怪しまれたようでした。
それで少し場が和みました。
パトカーに乗せられ、
「急いでおられました?」
「いいえ、全然。すみませんでした」
「どこに行かれるんですか?」
「カニを食べに。すみません」
「今、速度規制がかかってるの気付かれてます?」
「はい、雪が降って来たんで50キロになってたのに、すみません」
「じゃ、どうしてスピード出したんですか?」
「気を付けてたんですよ。でも気付いたら、うっかりいつもの癖で、100キロほど出てしまって、すみません」
「50キロ超過は、うっかりでは済みませんよ」
「分かっています。すみません。本当にうっかりしてました。お巡りさんが、さっきのサービスエリアで見ておられたのにも気付いてたんですけど」
「まだ雪は積もってないからよかったですけど、本当に危ないところでした」
「はい、赤ちゃん乗せてるんで気を付けてたんですが、その子が初めて雪を見たんで、そんな話で妻と盛り上がってたら、うっかり速度規制を忘れてしまって・・・」
「なるほど。ゆっくり運転されてたはずなのに、段々スピード上げられるから、おかしいなと思ったんです」
「はい、すみません」
「悪意がなかったのはよくわかりました。じゃ。今日は注意だけと言うことで・・・」
(え? それでいいの? 50キロオーバーなのに)
これで済みました。
これほどの『超スピード違反』は、裁判所行きを覚悟したのに。
罰金で高いカニ料理になるところでした。
よく考えたら学生の時にも、違反を許してもらった覚えがあったな。
原付バイクで大学に通ってたんだけど、原付って30キロしか出しちゃダメでしょ。これ守るの大変だよね。
都会にある大学だったから、大通りの渋滞をすり抜けながら走ってると、そうそうスピード出す必要ないけど。
でもある日、原付バイクの集団に追い付いて、(今日はみんなゆっくり走ってるな)って不思議に思った。
左側からその集団を追い越して先頭に立ったら、誰かが僕の右肩を、トントンと叩く。走行中にだよ。
何だろうって思って振り向くと、抜いた先頭がなんと白バイだったのだ。(ヤバイ)
何キロ出てたかは、分からない。すぐに止められた。
白バイ隊員は、僕の後ろにバイクを停めると、近寄って来て、
「左側から抜くのは違反になります」
「え? そうだっけ?」
まだそんな交通ルールを理解していなかった。
「すみません」
そこから白バイ隊員の説教が始まる。なぜ左から追い越すのがいけないのか、丁寧な説明。
でもその状況で、ふむふむとじっくり聞くような、心の余裕なんてないですよね。
(ああー反則金いくらだろう?)そんなことしか考えられない。
僕は遅刻したら困るので、すぐに反則切符を切ってほしくて、自発的に財布を取り出して、免許証を出そうとした。
その様子を白バイ隊員は見ていたのだけど、「あれ?」と声を出された。
財布の中から免許証を引き出す際に、ついでに学生証まで出てきてしまって、それに気付かれたのだ。
「○×大学か!? 後輩じゃないか。何学部だ?」
「外国語学部です」
「俺もだ。学科は?」
「英米です」
「そうか、俺はスペインだ」
「そうですか」
「よし、今日のところは注意だけにしといてやろう」
(え? いいの? 先輩の器の大きさ!?)
これで済みました。
白バイ追い越しの『超スピード違反』なのに。
こんなふうに付いてると思うけど、いつもそうだと言うわけではなく、教訓にしたいので・・・
作品名:おしゃべりさんのひとり言【全集1】 作家名:亨利(ヘンリー)