おしゃべりさんのひとり言【全集1】
ラスベガスの『NEW YORK・NEW YORK』って高層ホテルには、ものすごいジェットコースターが設置されてたんだ。
建物をはみ出して、ビルの隙間を突っ切って進む、スリル最恐のジェットコースターだ。
そのシートベルトは、ちゃちいものだった。
両手を上げたら座席からすっぽ抜けそう。でもやってみた。
これには初めて「スゴイ!」と思ったよ。
ビルとの距離感とあんな高さから、細いレール一本の上を落ちて行くこんな乗り物に、自ら進んで乗る人はバカに違ないと、自分で思うほどの体験だった。
いい大人がって思うでしょ。自分でもそう思います。
バンジーやスカイダイビングはやったことないけど、興味ありです。
思い起こせば少年時代から、こんなスリルが大好きで、危ないことばっかりしてきました。
小学校低学年の時、空き地に積まれた砂利の山の急斜面を、でんぐり返りしながら一番下まで転げ落ちてみたり。
近所の神社の裏山にある崖に生えた木の枝に、蔦が絡んで垂れ下がってるのを、ターザンのようにぶら下がったり。「アーアア~~~~!」て、叫ぶのが楽しかった。
高校の体操部時代、体育館2階バルコニーのコンクリート製の手すりの上で、平均台のようにバック転してみたり。
10メートルの飛び込みプールなんか、バック中して落ちても何ともない。
恐怖感がマヒしてるから? そうなんじゃないんだ。
全部失敗しても自分で対処できると思ってたり、安全が確保されてるって解りきってるからなんだ。
つまり論理的思考が、高所恐怖症を乗り越えられる唯一の特効薬ってわけ。
その証拠に、自分で対処できず、恐怖を感じた体験が一つだけある。
アメリカのアリゾナ州に、セドナって言うオアシス的な街があってね。
周囲は赤茶けた荒野にサボテンだらけの土地だけど、この町周辺だけ緑が豊かで、パワースポットとして有名な所なんだ。
僕はそこに、3回くらい遊びに行ってるんだけど、その荒野の岩山をピンク色のジープで疾走するアトラクションがあった。
レンジャーが運転するその車に、観光客は座ってるだけなんだけど、とにかく道なき道を、横転するんじゃないかって思うほどに、無茶苦茶に走ってくれる。
僕はこれが怖かったんじゃないよ。
ある程度高所に登って来て、休憩タイムがあったんだけど、周囲には落差何十メートルもの崖があって、そこにいくつか、煙突のようにそびえ立つ岩があったんだ。
それに登ってみたいと思った。
レンジャーは「Do be careful」って言った。
ま、「マジ気を付けろよ」てことだから、登ってもいいんだな。
一歩間違えば、奈落の底。でも僕はそんなこと何と思わなかった。
ぴょんとその岩の塔に跳び移って、しがみ付くようにスルスルスルっと登り、その50センチくらいしかない天辺で立ち上がって、写真を撮ってもらった。
(この写真はほとんど僕だけで周りの景色が写ってない、残念無意味なものだったけど)
下を見ると、何十メートルの高さ・・・。
登ってる時は、上を見いてるから気にならなかったけど、さすがに足がすくむ気分だった。
さあ下りようと、足を下に伸ばすが、「あれ?」・・・足をかける場所がない。
さっき上った時は、もっと下に足をかけてたけど、今は届かない。
上る時って、手の力で懸垂するように登れるけど、下りる時は、足が着かないと体を降ろせないもんだったんだ。
こんな岩の先端で、しっかり掴むことが出来る個所なんてない。
風化しかけの岩の表面でズルズルって滑ると、もう一番下まで落ちていくだろう。
こうすれば大丈夫って保証が全く見当たらない!
どうやって生還したかよく覚えてないくらい、必死に岩にしがみついて、転落覚悟で下りたんだ。
あの時は、・・・・・・(悔しいけど)ものすごく怖かったのを認めます。
作品名:おしゃべりさんのひとり言【全集1】 作家名:亨利(ヘンリー)