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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Riptide

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 白戸の右手が拳銃を引き抜き、駆け出した千夏が、手斧を振り上げながら一瞬で間合いを詰め、反射的に身を低くした白戸の目の前で、その刃を横向きに薙いだ。白戸は引き金を引いた。銃声が目の前で鳴った瞬間、殴られたように頭が弾かれ、白戸は真横に倒れこんだ。千夏より先に体を起こそうとしたが間に合わず、頭が機械に巻き込まれたような力で引っ張られ、白戸はその腕の先で光る、千夏の目を見た。手斧を引き抜こうと力を込めた千夏は、白戸と同じように横向きに倒れていた。添い寝をしているような体勢になった白戸は、千夏の胸の上に黒い穴が開いているのを捉えた。発射炎に被るように見えた、銃創。命中した手応えは確かにあった。千夏は、諦めたように手斧から手を離すと、白戸の目を見たまま、動かなくなった。
 白戸は拳銃をホルスターに収めると、ヘルメットを脱いだ。左側に、手斧が深々と突き刺さっていた。思わず自分の頭を触ったが、刃は貫通しておらず、頭は無事だった。
「正人くん」
 まだ伏せている正人に駆け寄ると、体を起こした。抱え上げるように現場から離れると、大きく息をついてから、白戸はようやく無線を手に取った。
  
  
・午後二時半
  
 銃声が鳴ったときに、港にいる全員が林の方を向いた。一部の警察官は銃声だと気づいていたが、『まさか』と、直感を振り払った。河田が、研吾から上谷を捕まえたという一方を聞いたことで、『リフレッシュコーナー』が新たな現場になった。足の指の骨をまんべんなく折った村井は、病院へ運ばれていった。
 白戸からの無線で、警察官が林の中へなだれ込み、高石と酒井の死体を見つけた。
 そして、研吾と結子は、公民館で明弘と正人が保護されていることを知った。勝俊が翔平に電話をかけると、代わりに田井が出て、事情を聞き終えると『分かった。公民館まで連れていく』と言うなり、勝俊がお礼を言う間もなく電話を切った。
 四人でパトカーに分乗して向かうと、公民館の入口で、白戸巡査が手招きした。河田警部は、原付の座席に置かれたヘルメットに手斧が突き刺さっているのを見て、目を見開いた。入れ違いに、そのヘルメットを被った白戸は、言った。
「現場検証行ってきます」
 手斧が突き立ったままのヘルメットを重そうに被り、原付のエンジンをかけた白戸は、一時間前に野次馬の整理をしていたときとは、別人のようだった。河田は何も言えずに見送ると、隅谷夫妻が子供たちと再会して、廊下が新しい居間になったように座り込んでいるのを見つめた。
「どこにいたの、ご飯食べてないでしょ」
 結子が言うと、明弘は首をすくめた。
「色々あったんだ。河田が頭を怪我して、保健室で待ってたら結構時間が経ってて」
 明弘は、正人の顔を見ながら濁した。
 枯れかけた差し花のようにくすんだ色のアルトが、道交法をほとんど無視した運転で駐車場に入ってくると、急ブレーキで停まった。河田は文句を言う気にもなれず、笑顔を作った。
「田井さん、お疲れさまです」
 田井は頭に打ち付けるような敬礼をすると、助手席から降りた翔平に言った。
「中に親御さんがおる」
 田井はアルトの運転席へ戻ると、どこかへ特攻するような勢いで、一時停止を無視して走り去った。
 翔平が巻田夫妻と再会したとき、勝俊と圭織も同じことを聞いた。一体どこで、何をしていたのか。翔平が答えに迷っていると、正人が言った。
「一緒に、林で遊んでました」
 明弘は思わず正人の横顔を見たが、その目がまっすぐ翔平を捉えているのを見て、自分がこの場で何かを訂正したり、付け加えたりする必要はないということに気づいた。翔平はしばらく正人と目を合わせていたが、小さくうなずいた。
「林って、田井さんのとこ? だめだってほんとにもー」
 結子が、その場にいる全員に頭を下げるように首をすくめながら、言った。
 明弘は、全員の視線が結子の方へ逸れたことに気づいて、その隙を利用するように、正人に言った。
「いいのか?」
 正人はうなずいて、答えた。
「いいよ。あいつは転校生だ」
 明弘は、今さら聞き飽きたというように、笑った。正人は、明弘の目を見ながら思った。酒井と千夏の驚いた顔。ようやくその意味が分かった。ほとんどの人間が、そのことに気づいていない。『遺伝子レベルで狂っている男』と、『畜生腹から生まれた女』。あの二人と林の中で話したこと。交わした言葉はこれから少しずつ掠れていって、いずれは消えていく。しかし、自分で答えたことだけは、これからずっと忘れない。正人は言った。
「でも、それ以外は、何も違わないんだ」
作品名:Riptide 作家名:オオサカタロウ