汚いミイラ
半世紀以上ピラミッドの秘密を追い続けていた永山教授は、金の塗装が施された石棺の前で吠えていた。
教授はこれまでにいくつもの歴史的な発見をしてきた。
その功績はエジプト政府はじめ、世界中で称えられている。
発掘の権限なども教授に一任されている部分もあり、まさに発掘界の生きる伝説のような人であった。
しかしこの発見は過去に比類がない。
壁の表面は念入りに磨かれ、黒光りをしている。
精密機器で計測したかのような正方形の部屋。
これはまさに、これまでの発見とは比較にならない重大な発見である。
まさにピラミッドの中でも最高峰の発見。
支配者の為に造られた隠し部屋。
この日も永山教授は盗掘を恐れ、深夜に1人ピラミッドの内部に調査に来ていた。
ほんのひと掴みの発見であっても、盗賊にとっては金になることがある。
リスクを最小限に減らすのは、世界的に期待をされている学者の使命であり責任でもあった。
そんな中、永山教授はピラミッドの最深部付近で偶然、隠し部屋の入り口を見つけた。
それはまだ現代の人間が足を踏み入れていない未知なる領域であった。
信じられないような巨大な石の壁。
その壁に爪ほどの大きさの穴が開いており、その部分に人指し指を突っ込むと、足元の床の一部が浮き上がった。
(どういう仕組みか分からなかったが、結果的に入り口が開いたのだ)
部屋は4000年以上前に作られたとは思えない程、完全な形で存在していた。
「ここは…素晴らしい…」
永山教授は「ため息がでるほど美しい」と「息を飲むほど美しい」を同時に味わった。
まさに究極ともいえる空間美。
部屋の中央に、金で装飾された石棺が神秘的に輝いている。
しかしながら、部屋の隅に乱雑に積み重なる10数体のミイラがあった。
その不釣り合いな光景は、この空間に不気味な存在感を放っている…
「しかしながらここは…」
永山教授は何かにとりつかれたように石棺を見つめている。
本来は小さなことでも発見をした時には、エジプト政府に報告をし、その後に許可を得ながら調査をするのだが…
「美しい…」
永山教授は、引き寄せられるかのように石棺の蓋に手をかけ、ズルズルと蓋を明けた。
「なんだこの汚いミイラは!」
永山教授は人が変わってしまったように、石棺の中で眠るミイラを乱暴に抱えあげ、部屋の隅に投げ飛ばした。
普段の教授ならば学術的に貴重なミイラを、このような扱いをするわけはない。
だが…
「相応しい人間は誰なのか!このピラミッドを支配するのは誰だ!そう地球上で1番ピラミッドを理解しているのはこの私なのだ!王の棺は私の棺である!」
永山教授はもちろん即身仏の知識も持ち得ている。
どのように最期を迎えれば、この黄金の石棺の中で自身がミイラとして君臨できるのか心得ていた。
そして、それから4000年後…
とある著名な学者が、ピラミッドの最深部付近で隠し部屋を見つけた。
それから…
「なんだこの汚いミイラは!」