踏切が下りるまで
彼が上りで、私が下り。
駅前の踏切で私が乗ってきた電車が通り過ぎるのを待つ。
遮断機が上がる。
そして、彼と私はすれ違う。
踏切の真ん中で。
運が良ければ、次の急行電車のせいで踏切は下りっ放しになる。
でも、ほとんどはそうはならない。
だから、彼と私はすれ違う。
踏切の真ん中で。
お互いの顔も見ず。
人の波の中に、彼の傍を通り抜けた風を探す。
私はただ、俯いて踏切を渡りきる。
そうすると、ちょうどまた警報器が鳴り始める。
その時にはもう、振り返って見ても、線路の向こうに彼の姿はない。
どこからともなく紅葉が舞って来る秋。
雪の上がったばかりの冬の朝。
線路沿いの桜が華やかな春の日。
雨の降る憂鬱な空の下。
彼と私はすれ違い続ける。
彼は私を見ない。
そして私も、彼を見ない。
俯いたまま通り過ぎるだけ。
私は、彼を追うことも、待ち続けることも出来ない。
遮断機が上がり、また下りるまでだけの、一瞬の恋。
また明日、明日の朝になれば……
また朝が来る、そして私たちはすれ違う。
いつもの時間、いつもの踏切で。
彼は変わってゆく。
でも私は変われない。
変われないままに、ここにいる。
この踏切が、上がってはまた下りる間だけ。
私はここにいる。
あの時からずっと。
彼が私の血と肉の残りを踏んで行ったあの日から。