刹那
当時、美憂はネットの投稿サイトで小説を書いていた。同じ志を持っているSNSの仲間が肩を寄せ合い、美憂も次々に長編小説を書いたものだ。あの頃は溌剌としていたと美憂はふと思い出すことがある。
かつて親しかった仲間はそれぞれの道を見つけて疎遠になった。美憂に熱い思いを抱かせてくれたのは美憂よりはるかに年下の彼らだった。
実際に対面して話すわけでもないのに、なぜか気が合って、お互いが敬愛の念を持ち愛し合うことさえ日常的になっていた。ネットへどっぷり浸かって喜怒哀楽を共有したかのように思えた。
それはリアルの世界では味わえない快感だった。
今思えばそれは儚い夢。その世界はまるでお伽の国にも似ていた。
仲間たちは一人去り二人去り、美憂の傍には誰もいないことに気付いたとき、ネットでの繋がりは追いかけるすべがない世界なのだと吾に返った。
ネットは怖いという人がいるけれど、体験した者からいえば、ネットの中に怖いものがいるのではなくて、まさに幻を現実と錯覚することに怖さがある。
昨日笑って話した人が翌日には消えているということが当たり前の世界がバーチャルなのだ。絵に描かれた物に手を伸ばしても食べることができないのと似ているかもしれない。
美憂は何度も何度も同じことを味わってきた。でもその世界から手を引くことができるかといえば、いまだにできないでいる。
まるで麻薬だ。
美憂はこの世界からいつ身を引くことができるのだろう。麻薬中毒よりよっぽど根強い気がする。