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『掌に絆つないで』第三章

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Act.08 [飛影] 2019年9月3日更新


「もう一度だけ雪菜に会わせてやる。それが叶ったら、望み通りオレがこの手で葬ってやろう」
飛影は自分と同じ紅蓮の瞳を見据えてそう言った。
殺せなかった母を、殺す決意が出来た。それが彼の結論だった。
生まれて間もなく捨てられて、愛情などとは無縁のまま生きてきたはずが、どこかでそれを求める自分がいた。しかし飛影が考えるものとはかけ離れた氷菜の愛情表現が、彼の逆鱗に触れることになった。
くすぶる迷いを踏みつけ、憤りに身を任せて、飛影は氷菜に背を向けた。

飛影が剣を引いてから数時間後、魔界の夜が明けた。
小高い木の上。微弱な光で出来た木漏れ日が射し込み、風に合わせてゆらゆらと揺れる様を、飛影はただ見守る。氷菜は彼が居座る木の根に腰を下ろしたまま、眠らずに夜を明かしていた。
そこへ幽助の分身である霊界獣の声が届く。
額の布を取り、飛影は霊界獣の背に乗る者の姿を確認した。
雪菜。
自ら赴いて雪菜と母を対面させるつもりが、彼女の行動のほうが早かったらしい。
彼は雪菜に自分の居場所を念信した。氷菜も霊界獣に気づき、立ち上がって空を仰いだ。
霊界獣は二人をめがけてゆっくりと降下。柔らかい風を巻き起こしながら、静かに着地した。
「お母さん、お兄さん……」
飛影のもとに辿りついた雪菜は、二人を呼びながら進み出た。
「雪菜」
瓜二つの二人が、向き合って手を取る。
「お母さん、私……」
「心配しないで。私を迎えに来てくれたのでしょう? 私はこのまま生きていくわけにはいかない。そう伝えに来てくれたのでしょう?」
「……わかっていたのですか?」
「ええ」
母の言葉に、雪菜は言葉を詰まらせた。
すべてを承知している母に説明はいらない。説明の代わりに話したいことがある。けれど、それが何かは自分自身でも掴みきれないでいる雪菜。それは初めて母と対峙した飛影の心情とさほど遠くはなかった。
飛影が木の上から地に降り立つと、雪菜は視線を向けた。しかし、彼はその視線を受け止めることが出来ずに目を逸らしてしまった。
「雪菜、あなた……」
ふと、氷菜は愛娘をまじまじと見つめ呼びかけた。
「いま、分裂期を迎えているのね」
分裂期。
その言葉を耳にして、飛影は咄嗟に二人に向き直り、雪菜と氷菜を交互に見比べた。
それは氷女が百年に一度迎えるという、子を成す期間。聖母マリアのようにたった一人でそれを成し遂げる氷女だが、男――つまり別種族と交わりを持つことも可能な期間でもあった。
「お母さん」
雪菜は力強く母を呼んだ。
「私は……確かに分裂期に差し掛かっていますが、おそらく子を成すことは出来ないでしょう」
彼女は自らの発言に俯き、氷菜の手を握る力を強めた。
娘の思いつめた表情を前にして、母は優しく微笑みながら手を握り返す。
「想い人が……いるのね?」
「はい」
二人の会話を聞いた飛影は、一瞬、雷に撃たれたかのような衝撃をその身に感じた。