『 洗顔料は料金じゃない』
やはり俺は苦労人なのである、とまた、鏡の中の顔をまじまじと見た。そもそも、他人の顔を観察する機会はいくらでもあるが、この間会った男などは、つるっとした顔と綺麗な二重まぶた、神は清潔そうなポマードで、顔の幅は記憶力と比例していますという感じのキャッチフレーズな名刺を差し出す、嫌みな奴だった。人ばかり見ていると、自分を見失うことになるのかもな、と俺は洗顔フォームを泡立ててホイップし、口角の形を気にしてみた。アヒル口ではないが、洗顔する度ユウウツだと感じる必要のない顔だと思い、目の下のクマをこすった。疲労は絶対的ヒーローとは関係ないし、ミラーは正直という訳でもなかった。
作品名:『 洗顔料は料金じゃない』 作家名:みゅーずりん仮名